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【プレイバックW杯】黄金世代スペインvs 五輪王者アルゼンチンの死闘は衝撃的な幕切れで決着

2023.01.23

ワールドカップ

 

 

2006年世界選手権 準決勝 スペインvsアルゼンチン 75-74

日本で初めて開催された2006年の世界選手権はドラマティックな試合が多い大会だった。出場チームが16から24チームに増加し、ヨーロッパ諸国を中心にNBAでプレーする選手が増えたことでグローバル化し、サイズのある選手がアウトサイドシュートを習得ししたことで、戦術が多様化したことがその要因だ。

3点差でニュージーランドに敗れてあと一歩のところで決勝トーナメント進出を逃した日本、ギリシャの組織的なチームプレーの前にアメリカが準決勝で姿を消すなど様々なドラマがあった中で、とくに激闘となったのが優勝したスペインと、2004年アテネオリンピックで初の金メダルを獲得したアルゼンチンが激突した準決勝だ。それも、ただ接戦を演じただけでなく、それまで日本では見たこともなかったような“幕切れ”の試合だったのだ。

 

 

 

 

予選ラウンドで日本と同組だったスペインは、215センチのセンター、パウ・ガソル(元ロサンジェルス・レイカーズ他)と欧州屈指のシューターであるファン・カルロス・ナバーロ(元メンフィス・グリズリーズ)、司令塔のホセ・マヌエル・カルデロン(元デトロイト・ピストンズ他)ら、1999年の世界ジュニア選手権(現・U19ワールドカップ)を制した『黄金世代』を軸とし、現在はスペイン協会の会長を務めるホルヘ・ガルバホサ(元トロント・ラプターズ)が攻防の要としてチームを支えていたのに加え、のちにNBAでプレーすることになる期待の若手であるマルク・ガソル(元トロント・ラプターズ他)、ルディ・フェルナンデス(元ポートランド・トレイルブレイザーズ他)、セルヒオ・ロドリゲス(元ニューヨーク・ニックス他)を擁していた。

 

 

 

 

一方のアルゼンチンは大会直近の2004年のアテネオリンピックで金メダルを獲得したメンバーのマヌ・ジノビリ(元サンアントニオ・スパーズ)、ファブリシオ・オベルト(元サンアントニオ・スパーズ他)、カルロス・デルフィノ(元デトロイト・ピストンズ他)、アンドレス・ノシオニ(元シカゴ・ブルズ他)ら大会当時にNBAでプレーしていた4選手に加え、のちに東京五輪までプレーする息の長い選手となったルイス・スコラ(元ヒューストン・ロケッツ他)、そして大会屈指のポイントガードと呼ばれたペペ・サンチェス(元アトランタ・ホークス他)がチームをリードするなど、こちらも厚い選手層を誇っていた。どちらの国も、育成年代から“個”を鍛え、組織的なチームプレーで勝負するチームだ。

 

 

 

 

試合は僅差ながらもスペインがリード。ラスト1分36秒には大黒柱のパウ・ガソルが左足を痛めてベンチへ下がるアクシデントが起こるが、この時点で6点のリードを奪う。しかし、追い詰められたアルゼンチンは五輪王者の意地を見せる。サンチェスが3ポイントを沈め、続いてジノビリがドライブを決め、スコラがファウルから得たフリースローを2本成功。役者たちが仕事をして74-74の同点に持ち込む。この時点で残り22秒。
ここでアルゼンチンは、あえて早い時間にファウルゲームを仕掛けることを選択。相手にフリースローを与えてでも、自分たちの攻撃権を得るためだった。

 

 

 

 

残り19秒、カルデロンがフリースローの2投目を決めてスペインが1点リード。逆転に望みをかけたアルゼンチン、1点を死守するスペイン。両者最後の攻防に会場となったさいたまスーパーアリーナはスタンディングオベーションで見守る観客もいたほど、興奮のるつぼと化す。アルゼンチンは思惑通りにジノビリに命運を託し、ジノビリは中央突破を試みるが、スペインはトリプルチームで阻止。そこでジノビリは右コーナーでノーマークになっていたノシオニにパスをするが、逆転の3ポイントは無情にもリムを弾いてゲームセット。75-74――。1点を争う死闘はスペインに軍配が上がった。

 

 

 

 

結果的にアルゼンチンは1点差で敗北するのだが、最後にアルゼンチンが早めにファウルを仕掛けたことに当時は疑問の声が上がっていた。同点だったため、守り切れば延長になる可能性もあった中で、相手にフリースローを与えてしまえば敗戦が色濃くなる。そうした危険を冒してまでも『ラストポゼッション』に賭ける選択は、当時の日本ではあまり目にすることはなく、ギャンブル性が高い作戦に映ったからだ。試合後、最後のファウルゲームについてジノビリは「僕らはいつもやっていること」というコメントを残している。衝撃的な幕切れの中で勝敗が決したのだった。

決勝では準決勝の激戦を制したスペインが、同じく準決勝で優勝候補のアメリカに勝利して意気上がるギリシャを倒して初優勝。準決勝で負傷退場したパウ・ガソルは左足第5中足骨の骨折と診断されて決勝を欠場するが、得点3位(21.3点)、リバウンド(9.4本)とブロックショット2位(2.4本)のアベレージを記録して大会MVPに選ばれている。