B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2022 IN OKINAWA B.Hope Action DRIVE TO DREAM「リモートコーチング supported by SoftBank」
「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2022 IN OKINAWA」の開催にあたり、B.LEAGUE Hope では「B.Hope Action DRIVE TO DREAM」と題して、バスケットボールを通じて地域の社会課題解決の一助となること、また子どもたちが夢持って学習やスポーツ取り組むきっかけとなることを目指した取り組みを実施しました。
離島のバスケ部が、IT技術による画期的なリモートコーチングに挑戦
5月7日、沖縄県の離島・伊江島唯一の中学校、伊江村立伊江中学校の男子バスケットボール部員11名が沖縄アリーナで「スキルズチャレンジ」に挑み、昨秋から取り組んできた「リモートコーチング supported by SoftBank」の成果を披露しました。
沖縄県には160の島が点在し、そのうち37の有人離島には約13万人が生活をしています。離島生活には様々な課題があり、子どもたちがスポーツに取り組む環境においても、対外的な試合が組みにくい等の課題から、目標を持ちにくい現状にあります。また、新型コロナウイルスの影響により、部活動や大会が中止になるなどの影響もあり、その課題はより深刻な状況にありました。
そこでソフトバンク株式会社様と琉球ゴールデンキングスのご協力を得ながら、「練習のモチベーションを得る」「プロの指導を受ける」といった機会を提供し、同じ境遇の子どもたちの環境改善のきっかけになることを目指した取り組みを実施しました。
部員たちは、ソフトバンク株式会社様の情報技術を用いながら、琉球ゴールデンキングスユースチームのプロコーチ陣の指導の下、バスケスキルの向上に励みました。B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2022 IN OKINAWAは新型コロナウイルスの影響で中止となり、当初、同大会で実施予定だった部員たちのスキルズチャレンジも延期となっていましたが、今回、晴れてスキルズチャレンジが行われました。
【対応するSDGs】
【リモートコーチング 概要】
●対象チーム
沖縄県・伊江村立伊江中学校男子バスケットボール部
●担当コーチ
与那嶺翼 氏(琉球ゴールデンキングスU18ヘッドコーチ)
泉川寛太 氏(琉球ゴールデンキングスU15 ヘッドコーチ)
与那嶺響 氏(琉球ゴールデンキングスU15 アシスタントコーチ)
●プレー動画出演
#3 並里成選手、#14 岸本隆一選手(琉球ゴールデンキングス)
●監修
塚本鋼平(B.LEAGUE強化育成グループ)
●実施内容
・ティップオフイベント(11月27日)
・リモートコーチング(11月末~5月)
・スキルズチャレンジ(5月7日)
キングス・与那嶺コーチと部員たちがティップオフイベントで緊張の対面
リモートコーチングの対象となった伊江中バスケ部がリモートコーチングを開始したのは昨年11月末。ティップオフイベントでは琉球ゴールデンキングスU18の与那嶺翼ヘッドコーチが伊江島を訪れ、部員たちとの初顔合わせをしました。
部員たちは教室でリモートコーチングの概要説明を受け、過去のB. LEAGUE ALL-STAR GAMEでプロの選手たちがスキルズチャレンジに挑む映像で課題がどういったものかを確認しました。
その後、彼らは普段、練習をする体育館へ移動。与那嶺コーチから再度、ドリブル、パス、シュートの3要素で構成されるスキルズチャレンジの流れの説明をしてもらい、それから各部員が実際にタイムアタックで最初の計測を行いました。部員たちは、リモートコーチングを通じて、この日出したタイムの短縮に努めていくことになります。彼らはVRゴーグルを着用してのプロの選手のプレー映像の視聴も体験し、目の前に選手がいるような不思議な感覚に驚いている様子でした。
また、与那嶺コーチからはドリルの指導も受けました。部員たちは2人1組となってのドリブルの練習などに取り組みました。「部員たちに元気があったので指導がとてもしやすく、やりやすかった」と話した同コーチは、リモートコーチングという新たな取り組みについては「離れていても指導はできるということは、新しい指導法ができるんじゃないか。僕自身も楽しみ」と期待で胸を膨らませていました。
スキルズチャレンジに初めて挑戦する伊江中学校バスケットボール部員
ドリブルの指導を行う与那嶺翼コーチ
『VRドリル』『スマートコーチ』でトップレベルバスケを体感
リモートコーチングで使用されたのは、ソフトバンク株式会社様が提供するVR映像配信サービス『VR SQUARE』を使った『VRドリル』と、『スマートコーチ』と呼ばれるオンラインレッスンサービス。スキルズチャレンジの基本となるドリブル・パス・シュートの3タームで構成されました。
VRドリルでは、伊江中の部員たちは専用のゴーグルを装着し、琉球ゴールデンキングスの岸本隆一選手と並里成選手によるアドバイスを受けるとともに実演の模様を視聴。「キャッチ・アンド・シュート」のレクチャーでは岸本選手から「フォロースルーではリングに手のひらを入れるイメージを持って」というような具体的な言葉をもらうとともに、両選手があたかもそこにいるかのようなリアルな感覚を、VRゴーグルを通して体感しました。この年代の子どもたちはYouTube等を見てプレーの参考にすることが珍しいことではないようで、こうしたテクノロジーを使った指導法にもさほど違和感なく入っていけたようでした。
スマートコーチでは、動画撮影した部員たちの練習ぶりをアップロードし、与那嶺コーチら琉球ゴールデンキングスユースチームのプロコーチたちが音声によってフィードバックをします。フィードバックでは、与那嶺コーチから「(ドリブルでは)脚をもう少しクロスステップすると良いかもしれないぞ」「今のパスも丁寧さがあってグッドだったと思います」といったコメントをもらっていました。
本番までの約6ヶ月間、コロナ禍による部活動の中止で、部員たちは練習に打ち込めない時期もありましたが、琉球ゴールデンキングスのコーチたちと共にスキルアップに励みました。
待ちに待った練習の成果を見せる時。部員たちがスキルズチャレンジで躍動
そして、部員たちはスキルズチャレンジの日を迎えます。5月7日、沖縄アリーナでの琉球ゴールデンキングスと広島ドラゴンフライズの試合の前に行われました。同日の朝、伊江島からのフェリーで本島入りした伊江中一行。本番前にまずはコートでウォームアップをしながらコートやリングの感触を確かめますが、昨年オープンしたばかりの最新鋭のアリーナに足を踏み入れ、最初、彼らの表情は硬いように思われます。それでも、徐々に緊張が解けてくると少しずつ笑顔も見られるようになり、本番へ向けて準備が整っていきます。
スキルズチャレンジ直前に全員でハドルを組んだ
琉球ゴールデンキングス#14岸本隆一選手から部員たちへ応援メッセージが送られた
同中バスケ部の顧問の松田道之先生や、部員たちとはティップオフイベント以来の再会となった与那嶺コーチらがベンチで見守る中、チャレンジがスタート。序盤に試技を行った部員たちはやはり緊張を隠せないようでしたが、それでもリモートコーチングで学んできたことを出そうと懸命にコートを駆け抜けます。部員たちが試技を終えて戻ってくると与那嶺コーチが笑顔で、「よく頑張った」といった具合で彼らの肩を叩いて出迎えます。他の部員たちも拍手などで仲間を盛り上げ、ベンチの雰囲気も段々と明るくなっていきました。
「(チャレンジ前の)練習の時はあまり調子が良くなかったけど、それが終わって、良くなっていったのでほっとしています」。2年生で、チームではセンターを務める知念優成くんは和らいだ表情でそう話してくれました。リモートコーチングについては「最初はできるかなって心配だったけど、やってみたらわかりやすくて、教えてもらったことが上手にできたので、良かったです」と振り返りました。
11人が試技を終え、リモートコーチング開始時から18秒もタイムを縮めた2年生の大城春裕くんがスキルズチャレンジの優勝者となりました。最後は全員がコート中央に集まってクロージングセレモニーが開かれ、大城くんには優勝の記念に岸本選手と並里選手のサイン入りのボールが、そして与那嶺コーチには伊江中の部員たちの感謝の寄せ書き色紙が手渡されました。
優勝した大城春裕くん
普段練習している伊江中学校の体育館のリングも沖縄アリーナのリングも高さ等は同じ。それでもプロ仕様のコートでのプレーは、少し勝手が違った様子。大城くんは「リングとの距離がちょっと違っていて、シュートが難しく感じました」としつつ、よく止まるコートについては「走りやすかったです」とはにかみながら、感想を述べてくれました。3年生の内間裕飛キャプテンは自分の出来について悔しそうな表情を浮かべながらも「スリーポイントラインが近く感じました」とプロが使うコートに立てた喜びを感じていたようです。
キャプテンの内間裕飛くん
普段から部員たちの指導をする松田先生も「こんな良い舞台を用意してもらって、生徒たちがすごく真剣な表情でやっているのを見て、かっこよく見えました」と笑顔で話してくれました。コロナ禍で練習の中断や、対外試合がなかなかできないといった苦しさを味わったとのことですが、顧問はリモートコーチングとスキルズチャレンジでの経験が部員たちに刺激を与えたのではないか、とプログラム参加の意義を噛み締めていました。
スキルズチャレンジでの緊張から解放された伊江中学校バスケ部の面々はその後、琉球対広島の試合を観戦。プロのトップレベルの試合を間近で眺めながら、ダイナミックなプレーが出た時などは、手を叩いて喜んでいました。それ以外でも、アリーナグルメに舌鼓を打ったり、沖縄アリーナショップを訪れたりと、会場で過ごす時間を満喫しました。
スキルズチャレンジで部員たちのリモートコーチングの成果を発揮するところを見守った与那嶺コーチも、「嬉しいの一言」と、感無量の様子でした。
「(ALL-STAR GAMEが)中止となり、部員たちのことを考えると悔しいだろうなと思っていたので、チャンスをもらった部員たちがキラキラした姿でコートを駆け回っていたのが非常に感慨深く思いました」(与那嶺コーチ)
指導をする側だった琉球のコーチ陣にとっても、遠隔での指導をする中で通常以上に明確に言葉で伝える必要性を再認識したということで、彼らにとっても学びの多い経験となったようです。
現在、日本ではスポーツ庁を中心に部活動改革に取り組んでいますが、今後、リモートコーチングで使われたようなテクノロジーがさらに進化し、子どもたちへのスポーツ指導等の場面において役立っていく可能性は十分にあるでしょう。
伊江中の部員たちのスキルズチャレンジを現場で見守ったソフトバンク株式会社・サービス企画本部スポーツ企画部の関戸淳文部長は「ICT(情報通信技術)の力を使ったソリューションによって質の高い教育が遠隔でもできるというところに意義があると思っています。今回は中学校の生徒さんたちへ提供させていただきましたが、リモートコーチングによって、先生の教え方等においても質の高いものを提供できるのではないでしょうか」と、この分野での将来的な広がりに期待の言葉を述べました。
沖縄県は教育における格差が地域課題の一つとされています。沖縄県文化観光スポーツ部の宮平洋志様は、伊江中学校の部員たちにとって今回の取り組みが「人生の大きな力になる」とし、リモートコーチングで用いたようなデジタル技術の活用は「離島を多く抱える沖縄県にとって必要不可欠」だと強調しています。
「今回は、バスケットボールというフックでしたが、教育や人材育成であるとか、いろいろな機会に活用できる可能性を感じました」(宮平さん)
伊江中学校は島内唯一の中学校で、コロナ禍もあって対外試合ができないという厳しい事情がありましたが、リモートコーチングと沖縄アリーナでのスキルズチャレンジをは、部員たちにとっては生涯心に残るような出来事となり、またバスケットボールへの愛情を深める機会になったのではないでしょうか。
※琉球ゴールデンキングス#3並里成選手・#14岸本隆一選手が出演したVRドリルの映像は、「VR SQUARE」にて6月30日まで公開しております。
・#3並里成選手:ドリブル、パス
・#14岸本隆一選手:キャッチ&シュート、フリースロー
※バスケ☆FIVE(テレビ朝日)にて放送された「リモートコーチング supported by SoftBank」のスピンオフ映像が、バスケットLIVEにてご覧いただけます。
<バスケ☆FIVEスピンオフ#4>特別篇。心のパスは海を越えて
(文/取材●永塚和志)