2022/05/02B.HOPE STORY#013

“県民球団”秋田ノーザンハピネッツが地元企業と共に創る未来。

13年前に、『バスケ王国あきた』を全世界へ発信していくという決意のもと創立された秋田ノーザンハピネッツ。今回は、創立者であり現代表取締役社長の水野勇気氏へクラブの設立について伺います。またクラブ設立初年度から重要視している地域貢献活動の中でも、2021年からクラブのSDGsパートナーである東電化工業株式会社様と共同で行う『エコキャップ運動』と、プロスポーツクラブとして初となる『子ども食堂』の常設運営について紹介します。

プロスポーツクラブ初!常設のこども食堂“みんなのテーブル”

バスケットボール王国に“県民球団”を

58回の全国優勝という輝かしい記録を持つ能代工業高校(現能代科学技術高校)を筆頭に、バスケットボールが盛んな秋田県に水野社長がやってきたのは、秋田の国際教養大学へ進学した時でした。大学入学前と在学中に、アメリカとオーストラリアへそれぞれ1年間留学。留学先で地域の人たちがプロスポーツを楽しむという光景を目にし、秋田県というバスケットボール王国に、プロバスケットボールクラブを作ろうと決めました。しかし当時は、プロバスケットボールクラブはおろか、プロスポーツクラブがなかった秋田県。水野社長は、学生時代から取り組んだ立ち上げ活動で出資を募り、新規参入クラブを公募していたbjリーグへの加入を視野に入れ、2009年に秋田プロバスケットボールクラブ株式会社(現秋田ノーザンハピネッツ株式会社)として、県内初となるプロスポーツクラブの運営会社を設立しました。

設立2年目の開幕戦には、秋田ノーザンハピネッツが秋田県民から愛されるクラブとなり、永続していくことを目標に、3つの理念と7つのビジョンからなる『県民球団宣言』 を発表。秋田県民にとってなくてはならないクラブとなるために始めたのは、水野社長が海外留学で体験した、プロスポーツクラブと地域の人々が接点を持つ機会を作る地域貢献活動でした。

「ファンを増やす中で、興味を持ってもらうきっかけ作りとして地域貢献活動を始めました。バスケットボールに興味がない地域の人を引き込むために、クラブの存在意義を示していく接点づくりのための活動でした」と水野社長。クラブの理念として掲げた“県民球団”への第一歩でした。

秋田ノーザンハピネッツ株式会社の水野勇気社長

全員で秋田県にコミットする

“県民球団”として水野社長が立ち上げ時から一貫して行っていること、「選手やフロントスタッフ全員で(地域活動に)コミットすること」でした。開幕前のテレビ出演などのメディア対応をはじめ、県内の学校訪問などは選手やフロントスタッフが持ち回りで担当し、クラブ全員が秋田の地域の方々と触れ合う環境を作り出しました。そして秋田ノーザンハピネッツは活動の幅を徐々に広げ、結果として県内で90%をこえる認知度を獲得し、名実ともに愛されるクラブへと成長しました。

また、クラブを身近に感じてもらう取り組みの1つとして特徴的なのが、試合前に選手やブースターが行う秋田県民歌の合唱でした。この発想は、水野社長がサッカー日本代表の国歌斉唱からインスピレーションを得たものでした。試合前に県民歌を歌うことで、地元クラブを応援するという地域愛をくすぐり、秋田県民にとってクラブが誇りとなるものだと感じてもらいファンになってもらう。そういった狙いから、1年目は選手が入場する前にBGMとして流していました。しかし、なかなか浸透しなかったことから、2年目から選手入場後にブースターと選手が一体となって合唱する方法に変えると参加率が上がり、今ではホームゲームの名物となりました。

県民歌を歌う選手、ブースター

「秋田の県民性を表現する際、引っ込み思案などネガティブなものが多く聞かれます。しかし、(コロナ禍前には)県民歌の合唱だけでなく、タオルダンス(秋田ホームゲームで、タイムアウト時にブースターが行うパフォーマンス)の参加率も非常に高かったです。こういった一体感を試合の中で作れるのは、ポジティブな県民性の1つだと思います。実は秋田県民はノリがすごくいいです。また、県民歌の斉唱の取り組みなどから、クラブを通じて地域愛を育んでもらいたい。自分が生まれ持った場所に誇りを持ってほしいと思います。」(水野社長)

秋田ノーザンハピネッツを盛り上げるブースター

クラブ一丸となって地道に地域貢献活動を実施してきた秋田ノーザンハピネッツ。
2021年8月2日の「秋田ノーザンハピネッツ」の日、同クラブはSDGsへの取り組みに関する表明を発表しました。「今までやってきたことの延長ではあるが、SDGsをきっかけに今までに以上にパートナー企業の皆様との取り組みを加速させられるのではないかと思い、記者会見を実施することにしました」と水野社長はおっしゃっています。
本発表では新たな取り組みとして『エコキャップ運動』と『子ども食堂』の運営を発表。秋田ノーザンハピネッツが“県民球団”として秋田県に貢献できるよう、地元企業と共に推進しているSDGs活動についてご紹介します。

SDGsパートナーと取り組むエコキャップ運動

エコキャップ運動とは、ペットボトルキャップを試合会場などで回収し、オフィシャルパートナーである東電化工業様のサポートにより福島県にある回収業者に買い取っていただき、その売却益の一部が認定NPO法人世界の子どもにワクチンを 日本委員会(JCV)にを通してワクチン支援活動に寄付されるというものです。本活動は、昨年10月下旬に記者会見にて発表されました。

会見に出席する秋田ノーザンハピネッツ水野社長(左)と東電化工業株式会社若泉社長(右)

秋田県内でめっきを取り扱う東電化工業様は、会社の方針として、有志で集まった若手社員を中心とした「未来プロジェクト」を立ち上げ、その活動の一環としてSDGs活動を3年ほど前から始めていました。そんな中、水野社長から社会貢献活動やSDGsに関して相談を受けた若泉社長は「(当時既にクラブスポンサーになっていたが)SDGsパートナーになれないか」と水野社長に伝えました。「(秋田)ノーザンハピネッツさんの発信力は素晴らしいです。プロスポーツクラブである秋田ノーザンハピネッツの秋田県内で与える影響力を利用させてもらう形ですね。結果としてものすごい反響をいただくことができました。会見のニュースを見た方々がキャップを持ってきてくださり、会見後の活動に拍車がかかりました。」と若泉社長は当時を振り返りました。

東電化工業様の社内外で取り組んでいたエコキャップ運動は、秋田ノーザンハピネッツのホームゲームや県内の学校や企業でも取り組まれ、直近の試合では90リットルの袋を17袋(143kg)回収するなどますます加速しています。

また、東電化工業様の関連会社である東商事様は果樹園も経営されており、秋田ノーザンハピネッツのホームゲームにて不定期でりんごを販売しています。購入してくださるブースターとの交流も多く生まれているとのことでした。

試合会場で集まったエコキャップボトル

「エコキャップ運動は、我々が会社レベルでスタートしていたものを(秋田)ノーザンハピネッツさんの力を借りて大きくすることができて感謝しています。私たちのアイデアを(秋田)ノーザンハピネッツさんに利用していただき、多くの方に幸せが訪れるよう、これからも協力していきたいと思います」と若泉社長から今後に向けてコメントをいただきました。
また、プロスポーツクラブがオフコート活動をする意義について若泉社長は「本業を一生懸命やった上で、他の活動に力を入れるのは労力がいることだが、ハピネッツさんは民間企業よりも周囲を巻き込む力を持っているので、もっと取り組んでいってほしいです。秋田県民は一度仲良くなったら離れません。必ず地域に根付いて良い文化となっていきます。」と、お話しいただきました。

東電化工業株式会社の若泉裕明社長

選手も利用できる子ども食堂を目指して

子ども食堂の始まりは、選手のコンディション面の課題がきっかけでした。現在クラブには選手寮は無く、一人暮らしの選手の食事は自炊でまかなっているため、栄養バランスや食事量が確保できていないことが悩みとして挙げられていました。そこで水野社長は、選手が食事をする寮のような施設を建てる計画を数年前から思案していました。しかし、料理人を雇ったとしても実際に選手が毎日食事を取るとも限らなかったため、なかなか実現までに至りませんでした。そんな中、ここ数年で子ども食堂の運営が各地で実施されていることを受けて水野社長は、「選手も食事ができる子ども食堂の運営を目指そう」と思いつき、取り組みが始まりました。

秋田県内には、ひとり親の子どもが約1万6千人いるという実情を知った水野社長は、「“県民球団”としてうたっている以上、そういった層へのサポートも必要ではないか」と考え、子ども食堂の設立を急務としました。そして2021年10月末に、プロスポーツクラブとして初となる常設の子ども食堂「みんなのテーブル」の運営を秋田市でスタート。現在まで、親子を中心におよそ1,000人が子ども食堂を訪れています。現在、選手にとって充分なエネルギーを確保するために必要なメニューは思案中ですが、時折選手やクラブスタッフも訪れ、利用者と交流する場となっており、子ども食堂のイメージを、明るく楽しい場所にもしたいと水野社長は言います。

秋田ノーザンハピネッツのスタッフも利用

自身も4人の子どもを育て、家族とともに子ども食堂を訪問した前田顕蔵ヘッドコーチは、「すごく素敵な活動だと思います。クラブのスタッフや選手にとっても地域の方とふれあう場となるため、より地域への愛着が湧きました」と振り返りました。

子ども食堂を訪れた秋田ノーザンハピネッツ 前田顕蔵ヘッドコーチ(中央)

また、三遠ネオフェニックス在籍時からバスケットボールの寄贈など社会貢献活動に取り組み、今シーズン秋田に移籍した後には子ども食堂にも訪れた川嶋勇人選手は、「プロスポーツクラブが運営することで、利用者の方にも親しみやすさを感じてもらえると思います。今後は、利用者の家族を試合に招待するなど、いろんな人を巻き込んでいきたいです」と今後の活動への意気込みを語ってくれました。

秋田ノーザンハピネッツ 川嶋勇人選手

「これからの課題はどう継続していくか。運営資金はクラブからの拠出と休眠預金を使った助成金を活用しているが、助成金は2月末で終了している。“県民球団”を目指している中で、途中で辞めるのは無責任だと思っているので、この活動はやめられないと思っています。今後はいかに持ち出しを少なくし、運営していくかです。」と水野社長。
その一つとして、子ども食堂で扱う食材に着目し、規格外となってしまった野菜や、廃棄となってしまう肉などを県内の農家やスポンサー企業から提供してもらい、子ども食堂のメニューに使う体制も整えています。また食堂で余ってしまった食材は、クラブと連携しているNPO団体を通じて寄付するなど、廃棄ゼロを目指しています。

「我々は課題先進県にいると思っています。その中で、いろいろなアイデアを持つ人たちを、僕らの強みであるネットワークや、我々を支えてくださっている企業やボランティアの方々、県民などのステークホルダーをつなぎ、一緒になって実現することができています。プロスポーツクラブだからこその影響力を持って、広がりを作っていくことが強みです」

そう自信を持って話す水野社長。現在秋田ノーザンハピネッツは、エコキャップ運動や子ども食堂のほかにも、試合会場に訪れたブースターから食品を回収し、困窮している家庭へ支援として寄付するフードドライブ活動や、ユニバーサルスポーツの普及活動などを行っています。

ホームゲームのSDGsブース。フードドライブも実施

水野社長は、2026年の将来構想に向けクラブとしても新しいフェーズに入る中、「秋田県民と夢や目標を共有するためにも新B1を目指したいと思います。ただ、どのカテゴリーであっても地域にとってなくてはならない存在になることは不変です。そのためにも、現在取り組んでいる活動はこれからも続けます。それこそ地域活動はクラブが“県民球団”として永続するために必要な要素の1つです」と今後に向けて話しました。

“県民球団”秋田ノーザンハピネッツは、水野社長を筆頭に秋田県民の誇りとして歩みを進めます。