2022/12/09B.HOPE STORY#020

- 日本バスケットボール選手会の存在意義とは -
初代会長 岡田優介選手インタビュー(前編)

現在、アルティーリ千葉でプレーしている岡田優介選手は、公認会計士試験にも合格しており、3人制プロバスケットボールチームのオーナーでもあります。プロ選手という厳しい環境にいながら、様々な顔を持つ岡田選手ですが、2013年には日本バスケットボール選手会(以下「JBPA」)を設立しました。
今年9月に4代目会長として就任したのは、熊本ヴォルターズの田渡凌選手。個人で様々な社会貢献活動を実施していた田渡選手は、会長就任後、早速JBPAの改革に乗り出していました。
2人に共通する想いは「バスケットボール界が今よりもっと良いものになる為に」でした。 2人が思うJBPAの存在意義は何でしょうか。

前編ではJBPA設立秘話、思い出に残っている活動、今後の選手会に期待することなどを初代会長岡田選手にお話頂きました。

※『日本バスケットボール選手会(JBPA)』の詳細はこちら:https://j-bpa.com/

岡田選手へのインタビューはZoomで実施

日本バスケットボール選手会(JBPA)の設立
-選手が自発的にバスケットボール界の将来を考えなければいけない-

ーーなぜJBPAを発足しようと思ったのでしょうか。

岡田)JBPAは2013年9月に発足しましたが、当時のバスケットボール界は、JBL(日本バスケットボールリーグ)からNBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)に変わるタイミングでした。ルール変更やリーグの方針が選手不在のまま決まっていくことにとても危機感を覚えました。選手にとって不利益な変更もあったんです。
日本のバスケットボール界をもっと良くしていく為には、選手の意見も取り入れて欲しい。そういった気運も当時はありましたし、僕自身もそう感じ、これがJBPA発足のきっかけとなります。
日本では野球やサッカー、海外を見ればメジャースポーツには必ず選手会があります。日本のバスケットボールがよりメジャーになっていく為に選手会が必要だと感じました。
選手会を作る・作らないは別として、まず選手みんなで集まって、どういった選手会ならあるべきかを議論しました。
立ち上げで中心となった選手たちは、今はベテランとしてチームの最年長になっていたり、既に引退した選手もいます。「今選手会が出来たからといって、自分たちの待遇や状況が変わるわけではない、でも将来プロを目指す子供たち、若い後輩たちには良い道を残したい。それが今の自分たちの役割である。」そんな想いから、JBPAを立ち上げました。

ーーJBPA設立までに苦労されたことは何でしょうか。

岡田)まずは「周りからの見られ方」ですね。どうしても選手会と言うと、「労働組合として戦うのか?」「ストライキでもするの?」「選手たちが反乱分子として集まった」みたいに言われることも多くて(笑)
自分たちの意見を押し付けるような選手会を作りたいわけではなく、協会、リーグ、クラブと手を取り合って、バスケットボール界をより良くしていきたいと思っていたので、毎回聞かれたら選手会の設立趣旨について丁寧に説明しました。
誰からも反対されないような、支持される、共感される活動を続けて、しっかり実績を積もうと思い、企業、ファン、地域の為の活動、つまり社会貢献活動を中心に活動することにしました。

もう1つは「選手の足並みを揃えること」ですね。
当時は正社員の選手や契約社員といったセミプロの選手も多くいて、企業に所属していました。「会社員だから入会出来ないと思う」と言っている選手もいましたね。もちろん会社員であっても入会出来ます。選手自身も選手会を理解していなかったんです。まずは法人形態の種類やその性質などが分かるように自分で資料を作って、選手向けに説明会もやりました。当時はWEB会議の文化もなかったので、何回か対面で会って実施しましたね。
当時僕はNBLのチームに所属していたので、まずはNBLの選手たちに声をかけ、設立初年度はNBLの全12チームの選手たちが入会してくれました。翌年度からはbjリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)の選手たちにも、全チーム連絡をして、電話だけではうまく伝わらない場合は直接現地まで出向いて説明をするケースもありました。「試合後、ロッカールームで10分だけ時間をください」と。最初はみんながみんな賛成してくれるわけではなかった。でも直接会い、面と向かって話すことでその熱意が伝わって、最終的には一緒にやりましょうと言ってくれました。
一部の選手だけでやってしまっては意味がない、全ての選手に同じ情報を伝えることが大事だと思ったので、連絡はマメに実施しました。「選手一丸となること」これは凄く大変でした。

 

 

これまでのJBPAの活動
-選手自ら企画し、運営することで感じる、周りの人への感謝-

ーーこれまで実施してきた活動や印象に残っている活動はありますか。

岡田)JBPAの定款に掲載されている5つの項目を満たしているものであればやろうというスタンスです。

1. 日本バスケットボール界の普及・発展
2. ファンコミュニケーションの拡充
3. バスケットボール選手を取り巻く環境の改善
4. スポーツを通じた次世代の育成
5. 社会貢献活動の推進

クラブ、選手個人でも社会貢献活動をやっている選手はたくさんいます。選手会ならではなのは、クラブをまたいで複数選手が一緒に活動出来ることです。 JBPA立ち上げ時はたくさん依頼がきましたが、選手個人を指名するような企画は断っていました。それは選手個人の価値を感じてくださっているので、クラブに依頼してもらったほうが良いと思ったので、選手会とクラブの活動の線引きをすることにしています。選手会の活動は「選手たちが自発的に物事を考える」ことが起点にありますので、参加する選手も任意です。参加したいと思った選手が手を挙げ、参加するという方針です。

 

岡田)特に1番印象に残っているのは、2014年6月に実施した、岩手県大船渡市での復興支援活動です。選手も40名ほど参加してくれて、企画、運営もほとんど選手で実施しました。 選手たちからはこれやりたい、あれやりたいの意見は出るんですけど、裏方の仕事の大変さを理解していなかったので、現実との擦り合わせが大変でした。
日本代表クラスの選手もいたので、お客さんもたくさん来てくれると思っていたみたいです。リーグ戦でたくさんお客さんが入っているのを、選手たちは自分たちの力で呼べていると思っていたんですね。実際はチケット担当や広報担当など集客を頑張ってくれているスタッフがいるからということを分かっていなかった。
選手は主役ではあるけれど、裏方で頑張っている人たちがいて成り立っている、自分のクラブのスタッフ、リーグ、協会の方の大変さを、この活動を通じて選手たちも理解したようです。 イベント自体は大成功でした。一生懸命やったことはみんなから凄く感謝されるし、大船渡の方々からとても歓迎されました。みんな感じるものがあったようです。

 

今後の選手会に期待すること
-選手自身が自分の頭でしっかり考えて行動して欲しい-

 

ーーBリーグの開幕と同時に会長を退任されましたが、今後の選手会に期待することはありますか。

岡田)僕の次に会長に就任したのが同期である竹内譲次選手(現大阪エヴェッサ所属)でした。他の若い選手たちは、僕の次ということで結構プレッシャーがあったようです(笑) なかなかやりますという選手が現れず、そんな中で彼が手を挙げてくれました。副会長として僕のそばで頑張りや苦労をずっと見ていてくれていたので、凄く嬉しかったし、現役の日本代表にも名前を連ねており影響力や選手たちからの信頼もあり、適任だと思いました。僕も歳を取りますし、次世代の選手たちの為にも、3年程度で退任したほうが良いと思っていたので、良いタイミングで引き継ぐことが出来ました。
今後の会長たちには自分と同じことをやって欲しいとは思わないし、それぞれ個性と良さがあるので、それを活かして引っ張っていってくれれば良いと思っています。
でも、自分の頭で考えることは決して忘れないで欲しい。自分事に出来なくなった瞬間にそれは選手会ではないんです。いまだに受け身の選手が多いというのは感じています。たまに「選手から集めた選手会費は何に使っているのか」と聞かれることがありますが、それを何に使うのか決めるのが選手会であり、そのような質問が既に受け身であると思います。もちろん、毎年決算報告で開示しておりますし、内訳も全てクリーンになっています。会議の場があるので、何に使えばバスケットボール界の普及発展に繋がるのか、みんなで考える選手がどんどん増えてくると良いなと感じています。

ーー今年の9月に体制が変わり、田渡選手が会長になりました。現体制のメンバーについてはいかがですか。

岡田)今のメンバーには凄く期待しています。影響力もあり、社会貢献活動に関しても想いのある選手が多い。そういった選手たちが行動を起こすことで周りも付いてきますし、彼らにはその義務があると思っています。自分のことだけでなく、次世代、社会の為に少しでも時間を割いて欲しいですね。当時僕は、現役の日本代表であり、会計士としての知識もあり、JBPAの立ち上げは僕しか出来ない使命だと思って全力で取り組みました。今のBリーグの選手、特にトップ選手たちは以前とは比べものにならないくらい恵まれた報酬や環境を手にしています。その選手たちが次世代の為に行動を起こすことが、バスケットボール界のさらなる明るい未来に繋がると信じています。
僕自身は会長を退いた後も、監事として残り、出来るだけ発言は控えめにしようと意識しながらも会議にはずっと出席しています。自分が立ち上げたJBPAが若い選手に引き継がれているのは凄く嬉しいですし、やってきた甲斐がありますね!これからも監事という立場で、今のメンバーをサポートしていきたいと思います。

 

後編では、現会長の田渡選手から会長就任時の想い、今後のJBPAをどうしていきたいかなどについてお伺いします。