2024/04/24B.HOPE STORY#033

岩手ビッグブルズ
これからも「復興のシンボル」を目指して~東日本大震災復興祈念試合の開催~

昨シーズンB3完全優勝を果たし、今シーズンB2の舞台で闘った岩手ビッグブルズでは、甚大な被害をもたらした東日本大震災発生の2011年にチームが結成されました。同クラブでは毎年、「東日本大震災復興祈念試合」を開催しており、今シーズンは3月9・10日に盛岡タカヤアリーナで開催されました。震災と共に誕生したクラブが、今も変わらずに持ち続ける想いとは何か、選手・クラブスタッフにインタビューをしました。

【インタビュー対象者】
岩手ビッグブルズ 菊池美緒さん(クラブスタッフ)
岩手ビッグブルズ 三浦崇さん(取締役)
岩手ビッグブルズ 門馬圭二郎選手

「何年経っても心を寄せながら歩んでいきたい

岩手県出身でクラブ立ち上げ当初からのスタッフである菊池さんは、小学生から社会人までバスケットボール競技者というバスケ一筋。震災から13年間の歩み、そしてクラブの未来についてもお伺いしました。

ーー復興祈念試合は毎年開催されていますが、いつもどのような想いで迎えられていますか。

菊池さん「私が入社をしたクラブ創設1年目のプレシーズンゲーム、被災地復興というかたちで沿岸地域の方々をご招待し、全体で4、5000人のお客様が集まりました。とにかく会場の雰囲気が凄かったのを覚えています。

その試合では、沿岸地域で高校の先生をされている方が、子どもたちをバスで会場まで連れてきてくれたのですが、『震災後、子どもたちがこんなに笑顔を見せてくれたことは本当に久しぶりで・・・』という話をいただきました。その時『スポーツを通して誰かの心を動かすとか、感動を与えるとか、そういうことができる素晴らしい仕事なんだな』ということを、その一言で感じました。以降、このような復興祈念試合を開催する時には、その言葉を思い出しながら携わっています」

ーーこれまで印象に残っているエピソードはありますか。

菊池さん「過去に沿岸地域で試合を開催した時、(GAME1の)試合は負けてしまったのですが、ある男の子が『僕の人生の中で一番楽しかった』と言って、凄い笑顔で帰って行ったという話を聞きました。クラブ代表がこの話をスタッフや選手に伝えると、チーム全体が盛り上がって翌日の試合に勝利したことがありました。こういった言葉は本当にモチベーションになります。

震災から2年目のタイミングでは、釜石市の男の子からクラブ宛てに手紙をもらったこともありました。『震災にあってから、満足に(バスケットボールの)練習ができない。大会に出ても何十点差で負けて、部員のモチベーションも下がっている。でも自分はどうにかして勝ちたいから、岩手ビックブルズさんの力をもらえないか』という内容の手紙でした。それを当時のヘッドコーチに見せたら『これは行くしかないやろ!』と言ってくれて、選手・スタッフ全員が、子どもたちには内緒で、サプライズで練習に行ったりもしました。子どもたちが本当に喜んでくれて、手紙をくれた男の子は今、『人を助ける仕事がしたい』と消防士になっています。」

ーー菊池さんが思い描く、岩手ビッグブルズの未来像を教えてください。

菊池さん「クラブには『岩手ビッグブルズは復興のシンボルとして岩手県民と共に歩み続ける』という理念があり、この理念が全てだと思います。少しずつハード面で復興しているものの、今もまだ復興途中の地域や、さら地の土地もいっぱいあり、まだまだという場面も見えます。(震災から13年が経って)当時のことを知らない子どもが増え、震災を経験した子たちは今、高校生・大学生になっている時期。この子たちにとって震災を風化させないこと、そして震災の記憶が完全に心から消えていないと思うので、何年経っても心を寄せながら、『岩手ビッグブルズが楽しみの一つ、笑顔になれる一つである』そういうクラブになっていきたいです」

クラブ設立当初時代の復興支援チャリティーマッチ

サプライズクリニックの様子

「岩手ビッグブルズに関わってもらうことで夢をもらえた」と思う人たちを一人でも増やしていこう

現在、クラブ取締役とクラブオーナーを勤める三浦さんは、これまでバスケットボールとは無縁でしたが、震災をきっかけに地元岩手県へ戻り、当時の同クラブ選手との出会いがきっかけで試合観戦へ足を運ぶようになったと言います。岩手ビッグブルズに震災から立ち上がる勇気をもらった三浦さんは、2017年からクラブに携わるようになりました。

ーー今回の復興祈念試合での主な取り組みについてお聞かせください。

三浦さん「今節は、東日本大震災で被害の大きかった岩手県沿岸地域の方々をご招待しました。また、復興祈念試合では初めての取り組みとして、オープニングセレモニー内で県内中学生による『花は咲く』(※1)の合唱を実施しました。この企画はインターン生の発案で、『東日本大震災が起きたことを忘れないで欲しい、未来を担う子どもたちにも風化させずに心に刻んで欲しい』という願いから実現に至ったんです。選手たちにも聞いてほしくて、実際にコートサイドで聞いてもらいました。

(※1)『花は咲く』はNHKが東北地方太平洋沖地震の被災地の支援を行う〈NHK東日本大震災プロジェクト〉の一環として、復興を応援するテーマ・ソング。

(開催を終えて)それぞれのスタッフが復興祈念試合にかける想いを持つ中で、クラブ新記録となる3,800名以上のお客様に来ていただけたことは、一人ひとりの想いが積み重なっての結果だったと思っています。復興への取り組みはもちろんですが、もっともっと岩手ビッグブルズを知って関わってもらうことで『幸せになった、明日の活力になった、夢をもらえた』と思う人たちを一人でも多く増やしていこうと話しをしました。」

ーーこれまでの復興支援や地域活動の振り返りと、今後の展望を教えてください。

三浦さん「クラブとしては年間で100件くらいの地域貢献活動をさせていただいていて、今年になって思うことは、初めてブルズの試合にきてくれる人が増えていると感じます。普段の地域活動が長い年月をかけて少しずつ形になっていると感じています。競技以外での場面で「ブルズがいたおかげで元気をもらえた」と言ってもらえる人が増えることは、興行以外でもできることだと思っているので、今後もできることをやっていきたいと思います。

我々が今やるべきミッションはどれだけブルズファンを増やせるか、どのカテゴリにいたとしてもやるべきことは変わらないので、誇りと覚悟を持ってやっていきたいと話しています」

中学生が試合前に「花は咲く」を合唱

多くのファン・ブースターが来場

「自分たちにできることは希望や元気を届けること

3月9日はクラブ史上最多の3,873人のファン・ブースターが来場し、手に汗握る試合展開の中、岩手ビッグブルズが95-93で勝利しました。復興祈念試合に込めたチームの想いと、同日開催された防災アクションに参加した感想を、#22 門馬圭二郎選手に伺いました。

試合後にファンへ手を振る門馬選手

ーー今日(3月9日)の復興祈念試合を振り返っていかがですか。

門馬選手「復興祈念という位置付けの試合であったということで、自分たちがこの街のシンボルであるということは入団した時から全選手へ伝えられていることであります。試合前のミーティングでもヘッドコーチから、『心の復興はまだまだこれから。自分たちにできることは希望や元気を届けること』という話しがありました。勝ったことはもちろん良かったですが、皆、気持ちが出ていた試合であったと思います」

ーー試合後には、約500人の小学生が参加したディフェンス・アクション(防災バスケ)がコートで行われました。参加してみてどうでしたか。

門馬選手「あれだけの人数がいると、話を聞いてくれるかな、上手くできるかなと思っていましたが、皆しっかり行動できていたと思います。岩手は普段から防災訓練を意識してやっている地域ではあると思うので、防災の意識は身についているのかなとも感じました。防災訓練はお堅い雰囲気だと子どもたちもなかなか(知識が)入ってこないと思いますが、『ドリブルしながら(津波から)逃げる』など、楽しみながら身につけられるアクションだったと思います。災害が起きないことが一番ですが、発生した時に今日取り組んだことが思い出せれば良いなと思います」

試合中にハドルを組むチーム

ディフェンス・アクション後の集合写真

「復興のシンボルを目指して、県民とともに歩み続ける」 東日本大震災から今年で13年、これまでの復興の歩みの中には、悲惨な過去を経験した地域だからこそ、一つひとつのエピソードに希望や活力が感じられる内容でした。これからも岩手ビッグブルズは地域に寄り添って、復興の歩みを進めていきます。