2025/07/18B.HOPE STORY#64

「GLION ARENA KOBEから始まる地域共創」神戸ストークス、経済と社会の価値をつなぐ挑戦

クラブが主体となり、地域の未来を創る

“ホームアリーナ”にとどまらず、地域の未来を創る“共創の場”へ――。 2025年4月にこけら落としを迎えた「GLION ARENA KOBE」は、神戸・TOTTEI地域の社会的・環境的価値を生み出す『TOTTEI ALL GREEN ACTION』の一環として誕生しました。この拠点を起点に「経済的価値と社会的価値の両輪を回すこと」の重要性を語るのが、神戸ストークスの渋谷順代表取締役社長です。地域に根差したクラブとして、街とどんな未来を描こうとしているのか。社会連携Group グループリーダーの中田健介さんとともに、現在地と展望を聞きました。

――クラブのビジョン*からも地域への強い思いが伝わります。社会的責任活動の方針を教えてください。

*=「地域に関係するすべての皆さま、こどもから高齢者まで、そして幅広く多様な人々が熱狂や感動の時間を共有し、クラブの活動を通じて地域への愛情、優しさ、プライドを感じられるような未来を創り出します」

渋谷)クラブ運営は収益事業です。経済的価値をしっかり構築することが最も重要で、従来のビジネスモデルでは限界があると考えています。いかに社会的価値を結び付けるか。両輪をきちっと回すことが安定したクラブ経営にもつながると思っています。民間企業として社会的価値を作り上げる流れの中に、ストークスという地元スポーツクラブがある。そういう意味で“まちづくり”の主体者になり得る存在ですので、社会的な責任も非常に大きいと感じています。

© KOBE STORKS

――2015年からクラブに関わってきた中で、神戸という土地、ストークスの魅力はどんなところにあると感じますか?

渋谷)2015年当時は経営的にも非常に厳しく、まずはクラブを経済的に成り立たせることが喫緊の課題でした。私自身の人生は、バスケットボールから多くを得てきたこともあり、地域からクラブが消えることには強い抵抗感がありました。中小企業でもメディアや人々の注目を集め、発信源になれる。それがクラブの魅力であり、同時に大きな社会的責任を伴うものだと感じています。ストークスも一歩ずつ地道に歩みを進めてきて、アリーナも開業し、そして神戸に本拠地を移し、クラブとしての社会的な可能性を展開していくことができる場所と環境であると確信できています。あとはそれをどう生かすかが今後の課題です。

――その中で中田さんはSR※活動(社会的責任活動)を担当されているそうですね。稀有な経歴をお持ちと伺いました。※social responsibilityの頭文字

中田)大阪出身の私は学生時代にアメリカでスポーツビジネスを学び、アリーナ運営や地域連携も経験しました。2017年に帰国し、2023年から神戸のアリーナプロジェクトに関わり、現在はOne Bright KOBE(ワンブライト神戸)と兼務でクラブ運営も担当しています。最初は「SRって何?」という状態でしたが、地域の方々と関わる中でその意味を実感しました。神戸に来たばかりの新参者だからこそ、誠実に真正面から向き合いたいと思っています。

――商店街にも足繁く通っていると伺いました。具体的にどのような活動をされているのですか?

中田)活動の柱は、神戸市と兵庫県との連携の2つです。神戸市とは、商店街のお祭りでのフリースローイベントや、ファッションイベント「三宮コレクション」へのマスコットやチアの出演など、試合観戦以外の接点づくりに取り組んでいます。一方、兵庫県とはふるさと納税を活用し、県内各地で子ども向けのバスケットボール教室やクリニックを開催。観戦の機会も提供しており、2023-24シーズンから始まったこの取り組みでは、すでに数万人の子どもたちを招待しています。

©KOBE STORKS

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――子どもたちにとっては、うれしい体験ですね。

渋谷)兵庫県北部・豊岡市で行ったプレシーズンマッチは特に印象深いです。以前から「応援したい」という声をいただいていたのですが、実際の熱狂ぶりは想像以上でした。遠方から来たご家族もいたり、「こんなに楽しかったことはない」と話してくれた子どもたちがいたり、本当にうれしかったです。

中田)私も豊岡市での取り組みは特別な記憶です。ストークスの由来である「コウノトリ」との縁もあり、地元の方々に「自分たちのチーム」と感じてもらえたのがうれしかったですね。今年1月にはふるさと納税プロジェクトとして、豊岡の子どもたちを前座試合に招待しました。朝6時出発で神戸に来て、プロのコートでプレーし、選手とも再会する。この“交流の循環”を今後も続けていきたいです。

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――新アリーナ「GLION ARENA KOBE」は、TOTTEI地域の社会的・環境的価値創出を目指す「TOTTEI ALL GREEN ACTION」の一環で、クラブを中心に民間、教育機関、自治体が連携しているそうですね。

渋谷)これは私たちが主体となって構築した“地域共創型プラットフォーム”です。アリーナや周辺エリアを活用し、社会的・環境的な価値をどう生み出すかを重視しています。ハードとしてのアリーナと、ソフトとしてのクラブだけでまちづくりが成り立つとは考えておらず、「デジタル」と「コミュニティ」を組み合わせることが神戸の未来に意味を持つと確信しています。コミュニティの創出には、地域の共感を得る社会的活動が不可欠です。試合やイベントにとどまらず、人々が日常的につながれる仕組みをつくり、クラブが暮らしに溶け込むことを目指しています。子どもから高齢者まで多様な人々が支え合う“循環型の社会”を築き、その信頼の積み重ねが、やがて“シビックプライド”へとつながっていくと信じています。

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――デジタルという面では「Commons Tech KOBE」というスマートシティの取り組みもその一つですか。

渋谷)はい。主導するスマートシティモデルでは、アプリやPay機能の実装に加え、JRと連携して町中にビーコンを設置し、人流データの可視化を進めています。例えばアリーナ来場者が試合後にどこへ立ち寄ったかまで把握でき、街全体の動きが見えるようになります。神戸市もスマートシティ施策を進めていますが、行政はリアルタイムの行動データは保有していません。私たちはデータの相互連携による新たな“まちづくり”モデルの構築に取り組んでいます。街の回遊性を高め、関係人口・交流人口を広げていくことも、私たちの重要な役割だと考えています。

――「TOTTEI ALL GREEN ACTION」としては、水資源、食品ロス、地産地消も進めていくと拝見しました。

渋谷)いずれも重要なテーマですが、「地産地消」は特にわかりやすい例です。神戸では週末に地元産の野菜や果物を販売するマルシェがあり、私たちもそうした既存の取り組みと連携し、地元で生産・消費が完結する“地域内循環”の構築を大切にしています。経済の流れを地域内で回す仕組みをつくることこそが地方創生の本質であり、そのモデルをプロスポーツクラブが起点となって築ける意義は大きいと感じています。

――「GLION ARENA KOBE」を生かしてSR活動も行っていきますか?

中田)はい。アリーナでは、バスケットボールやコンサートだけでなく、日常的に人が集える場所になることを目指しています。すでに平日は地元の方がランチやお茶に訪れるなど、新たな地域の拠点となり始めています。また若い世代には、チャレンジの場としてこの場所を使ってほしいと考えています。現在アリーナ隣にあるTOTTEI PARKでは、神戸大学の学生と連携したイベントも企画しており、地域の文化やつながりを生む拠点として育てていきたいという思いはあります。

©B.LEAGUE

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――最後に、これからに向けた思いをお聞かせください。

中田)関西、そして日本を代表するクラブになることが目標です。競技力・施設ともにトップレベルを目指し、神戸のブランド価値をスポーツで高めたいと考えています。個人的には、アリーナの“顔”として誰にでも相談される存在を目指し、地域との信頼関係を築きたいです。最終的には、マディソン・スクエア・ガーデン(NBAニックスのアリーナ)のようにクラブとアリーナ、メディアが一体となったモデルを実現したいと思っています。

渋谷)アリーナというハードは完成した瞬間が最も新しく、そこから劣化していくものです。だからこそ、施設に依存するビジネスモデルには限界があり、重要なのは「コミュニティ」や「コンテンツ」をどう生み出すかだと考えています。多様な取り組みを通じて、人が集う場所にしていきたい。もちろんストークスというコンテンツ、そして「勝つこと」もクラブの使命ですが、そのうえでアリーナを介して人と人がつながり、緩やかなコミュニティが育つ。そこに私たちの本当の価値があると思っています。

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