2025/09/24B.HOPE STORY#68

滋賀レイクス・田原隆徳選手インタビュー「Lake upリーダーが描く、地域と子どもたちへの架け橋」

 

滋賀レイクスでは「りそなグループ B.LEAGUE 2024-25シーズン」より、「Lake upリーダー」を新設しました。クラブの初代に任命されたのが田原隆徳選手です。クラブのSDGs活動に加え、自身が立ち上げた「TEE’S SEAT」などを通じて地域と積極的に関わり続ける田原選手。オンコート以外の場でもクラブを支え、社会的な活動にも力を注ぐ姿は、多くのファンや地域の人々から注目を集めています。今回は、その取り組みに込める思いを伺いました。

――田原選手は、昨シーズンから新設された「Lake upリーダー」に就任されていますね。

田原)Lake upというのは、滋賀レイクスの造語で、「今日よりも明日をもっと良くする」という意味が込められています。選手だけでなく、チアやフロントにもそれぞれリーダーがいるんですよ。僕自身としては従来のオフコートキャプテンに近い役割なんですが、滋賀らしさを出すためにこういった名称になったと聞いています。
最初に任命されたときは、正直「それ何ですか?」という感じでした(笑)。キャプテンや副キャプテンを決める際に「田原、よろしく」と声をかけられて、何でも屋のような役割になるのかなと。実際、クラブのことはもちろん、クラブのフロントとも積極的にコミュニケーションを取りましたし、外国籍選手との関係構築にも力を入れました。英語は得意ではないんですが、クラブ全体の“架け橋”になれたらと思って行動し、クリスマスイベントやシークレットサンタなど、雰囲気をよくする仕掛けも担当しました。自宅でタコスパーティーを開いたこともありますよ。初めての試みばかりで、余裕があったとは言えませんが、自分にできることを全力でやった1年だったなと思います。

©SHIGA LAKES

――クラブが掲げるSDGs活動「LAKES SDGs」にも共感されているそうですね。

田原)本当に共感できる取り組みばかりです。子ども向けのクリニックやキャラバンは、クラブを通じての活動でもありますし、自主的に参加しているものもあります。琵琶湖周辺を掃除する「クリーンウォーク」にも共感して、個人的にゴミ拾いをしたりもしていますね。

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――シーズン中にはご自身の発案でひとり親家庭の子どもたちを試合に招待する「TEE’S SEAT」も実施されましたね。

田原)はい。この企画は、昨シーズン中にクラブのチケット担当の方と相談して立ち上げたもので、元々はジャスティン・バーレル選手(現ライジングゼファー福岡)がB2優勝時に実施していた取り組みを聞いたのがきっかけです。最初は、「バスケットボールや滋賀レイクスを知らない人たちに試合へ来てもらえたら」と考えていたんですが、自分自身の境遇と向き合う中で、“行きたくても行けない”子どもたちに何か届けられたらという気持ちが強くなりました。実際に来てくれたのは6人ほどでしたが、初めてのアリーナ観戦にすごく感動してくれて、子どもたちの目が本当に輝いて見えたんです。押し付けじゃなく、何かを感じてもらえたらいい。そういう気持ちでやっていますし、これからも続けていきたい活動です。

――田原選手ご自身がひとり親家庭で育った経験からと伺いました。

田原)そうですね。ひとり親家庭で育ち、見たくても見られない、行きたくても行けないという人たちの気持ちが少しわかる。そんな子どもたちに少しでもきっかけを与えられたらと思って、TEE’S SEATシートを実施しました。

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――ありがとうございます。クラブで学校訪問をする「レイクスキャラバン」でも子どもたちと触れ合いますね。

田原)最近はオフシーズンにまとめて行っていますが、年間10~20校ほどクラブとして訪問している中で、僕もいくつかの学校に伺っています。自分が子どもの頃にはこういった機会がなかったので、純粋にうらやましいという気持ちもあります。バスケットボールを通じて一緒に汗を流し、「楽しかった」「また来てね」と言ってもらえる一体感がとてもうれしいです。

――子どもたちとのコミュニケーションが得意そうですね。

田原)まずは“子どもが好き”ということが大前提ですね。それが行動や表情、声に自然と出ると思います。最初からグイグイいかずに、少し距離を取って様子を見ていれば、1~2時間で向こうから近づいてくれるんですよ。そのときにしっかり向き合う。そういった接し方を大切にしています。

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――地方の大学(札幌大)からB.LEAGUE入りされた経歴も、子どもたちにとっては大きな励みになるのではないでしょうか。

田原)北海道の大学を出て、B1でプレーしているのは僕ぐらいじゃないかと思います。エリート街道を歩いてきたわけでもありません。でも、努力してきたからこそ今があります。環境や巡り合わせももちろんありますが、地方からでも夢は実現できる。そのことを、これからも伝えていきたいです。

――社会的責任活動の中で、特に印象に残っているものはありますか?

田原)やっぱり子どもたちと触れ合えるクリニックですね。個人でもクラブの活動でもずっと継続してやっています。そこで出会った子と、のちにアリーナで再会することもありますし、「もしかしたら10年後にこの子がプロになっているかもしれない」なんて想像するのも楽しいんです。

――活動を続ける中で、得られるものも多いのではないでしょうか。

田原)自分が言葉を届ける時は、「自分で言っているからには、そうしなきゃいけない」という責任も生まれます。行動が伴ってなかったら、言っているだけになってしまいますし。それは練習中にも思います。自分の言っていることと行動を一致させなければというのはありますね。

――プロ選手がオフコートで社会的責任活動を行う意義について、どうお考えですか?

田原)学生とは違い、プロの選手である以上、地域や社会への貢献も求められると思っています。自分が経験してきたことを還元し、子どもたちにとって何かのきっかけになれるならうれしいですね。頑張れば道は開けるんだということも伝えていきたいです。 振り返ると学生時代は自分中心という考え方でしたが、経験を重ねるうちに、与える側になっていきたいと変化してきました。

――最後に、今後やっていきたい活動について教えてください。

田原)一人でやるだけでなく、共感してくれる人たちと一緒に活動を広げていきたいですね。最近は朝にゴミ拾いをしたりしていますが、バスケットボール以外でも、自分の行動が誰かのきっかけや何かの変化につながるなら、それはとても意味のあることだと思います。

©B.LEAGUE