名古屋Dインタビュー「“ファミリー”の力で広がるドルフィンズスマイル」
クラブ全体が一つの“ファミリー”として取り組む、地域とつながる社会的責任活動
名古屋ダイヤモンドドルフィンズが2020年に社会的責任活動プロジェクト「Dolphins Smile(ドルフィンズスマイル)」を立ち上げてから約5年。パワーアップを重ね、現在は気候変動問題、子ども支援、女性活躍推進の3つを重点テーマに取り組んでいます。今回話を聞いたのは、ショーン・デニスHC、梶山信吾アシスタントGM、そして活動を実務面に推進するクラブスタッフの須賀綾乃さんと飯塚さくらさんです。取材の中でわかるのは、ファンのみならずクラブ全体もまた一つのファミリーとして動いていることが、活動を支える大きな力になっているということです。クラブ、選手、スタッフが一体となり、地域と共に未来を創る「ドルフィンズスマイル」の現在地とこれからを聞きました。

——社会的責任活動プロジェクト「ドルフィンズスマイル」には、クラブとして活動にどんな思い入れを持っていますか?
須賀)重点項目として置いている3つのテーマは、ファンの皆さまへのアンケート結果を参考にしました。「社会課題の中で関心のあるテーマ」として最も関心が高かったのが、“子ども支援”、 “気候変動”でした。社会貢献活動に「きっかけがなく参加したことが無かった」というファンの皆さまの声が多かったので、興味関心の高い分野をドルフィンズが掘り下げることで、もっと多くの方に参加いただける活動になると考えました。 “女性活躍推進”についても、男子クラブだからこそ取り組む意義があると感じています。日本全体にとって重要な課題であり、将来的に世界のクラブと肩を並べられる存在を目指す上でも、社会的に意義のある取り組みになると考えています。
——飯塚さんは、思い入れがあるものはありますか?
飯塚)私はバガス容器の活動です。バガス容器は、さとうきびの搾りかすからできた自然由来の土に還る環境にやさしい素材で、ホームゲームの選手プロデュース弁当に使用(※)しています。昨シーズンは選手とファンが「ドルフィンズファーム」でお弁当を食べて、バガス容器を埋めるイベントを行いました。この取り組みは、バガス容器を埋めたドルフィンズファームで玉ねぎを育て、収穫した玉ねぎを使用して選手プロデュース弁当を作り、アリーナで販売するという循環型の取り組みです。容器から畑へ、そして食卓へとつながる循環の仕組みを実際に形にできたことは、とても感動的な取り組みでした。推している選手のおすすめ弁当をファンの皆さまが食べることで、未来の地球にいいことに繋がるということが、ドルファミ(名古屋Dのファン)の方にも楽しみながら体感していただけた企画だったと思います。
※現在は販売しておりません
須賀綾乃さん(左)と飯塚さくらさん(右)
©NAGOYAD
——様々なプロジェクトをやってきた中で、成果や課題と感じるものを教えてください。
須賀)大きな成果は、「ドルフィンズスマイル」を“楽しみながら取り組める活動”として発展させられたことです。選手たちからも「こういうことをやってみたい」「これはドルフィンズスマイルの取り組みになりますか?」という提案が出るようになり、選手が主体的に発信したり、選手自身も楽しみながらイベントに参加してくれることは大きな成果です。
飯塚)先日、シーズン前にクラブ全員で継続的に取り組んでいる救命講習を実施しました。その中で、ユースからトップチームに昇格した今西優斗選手が参加してくれたのですが、若い選手がこうした活動に興味を持ち、「今後も取り組んでいきたい」と自ら口にしてくれたことも「ドルフィンズスマイル」がもたらした大きな変化だと感じています。
救命講習に参加する今西優斗選手(左)
©NAGOYAD
③三菱電機コアラーズの選手(右)
©NAGOYAD
——女性活躍推進という分野では、トップオフィシャルパートナーとしてつながりがある三菱電機コアラーズ(Wリーグ所属)と活動できることも強みと言えますよね。
須賀)そうですね。コアラーズも地域活動に意欲的で、共に取り組むことも増えてきています。飯塚が言った救命講習も、コアラーズの全選手が参加してくれました。もちろん男子クラブであるドルフィンズの選手が取り組むメリット、発信力もありますが、毎年、3月8日の「国際女性デー」に近い日程にドルフィンズの会場で実施する「国際女性デー」に特化したイベントを実施する試合日に、コアラーズのキャプテンにメッセージを発信してもらうなど、ドルフィンズとコアラーズにしかできない取り組みにも注目して欲しいです。
——続いてデニスHCに質問です。クラブの社会的責任活動にどんな印象を持っていますか? また多くの選手が活動に積極的ということについても感想を教えてください。
デニスHC)クラブがその知名度やイメージを活用して社会問題への理解を広める取り組みは本当に素晴らしいですね。また、選手たちが意欲的ということも重要です。選手たちは地域社会から多くのサポートを受けており、常に注目を浴びる立場にあります。だからこそ、社会的な課題に対して前向きな影響を与えることができるというのは、選手たちにとって大切なことです。コートでのプレーだけでなく、コート外での行動や地域との関わりを意識することは、クラブの重要な文化です。
ホームタウンエリアの聴覚障がい者支援に繋げる手話シャツを着用して試合を戦うデニスHC
©NAGOYAD
——デニスHCはかつてニュージーランド女子代表を率いたこともありますね。ドルフィンズスマイルが女性活躍推進にも焦点を当てていることについてはいかがでしょうか?
デニスHC)社会において女性は非常に大きな役割を担っており、社会が高い水準で機能するために欠かせない存在です。しばしば、重要性が過小評価されていると感じることもあります。ニュージーランドで女子バスケットボールに関わっていた際も、女性たちがより高いレベルで活躍できるように支援し、力を引き出すことを意識して取り組んでいました。
女性活躍推進を問わず、社会的責任活動はどれも私にとってとても大切なものです。気候変動は現実に起きていることであり、私と妻は環境負荷を考え植物由来の食事を心がけています。また次世代の子どもたちに、健やかに成長できる環境を残す責任があります。
——梶山さんはドルフィンズスマイルを推進するにあたり、どんな思いを持って活動されていますか?
梶山)もう20年ほど前になりますが、現役時代、エコキャップ活動に取り組んだ経験が原点です。ファンの方にも身近で参加しやすい活動ということで始めました。当時800個でポリオワクチン1本を寄付できる仕組みで、ブログで呼びかけると本当に多くの方がキャップを持ってきてくれました。当時はブログしか発信手段がありませんでしたが、それでも発信力や影響力の大きさを強く感じました。この経験で社会的責任活動の大切さに気づき、活動の意義を多くの人に伝えたいという思いが、今の自分につながっています。
——身近な一つの活動が大きな力につながるというのは、ドルフィンズスマイルにも通じる部分かと思います。特に注力したい分野はありますか?
梶山)クラブとしてユースの活動もしていますし、プロを目指す子どもたちに夢を与えるというのは、私たちにしかできない役割だと思っています。しかし、バスケットだけをやっていればいいというわけではなく、地域が抱える社会課題解決のためにチーム一丸となって取り組んでいくことも、地域の皆さまに支えていただいている、プロスポーツクラブとしての使命だと思います。ドルフィンズスマイルの大きな3つの軸である、「気候変動」「子ども支援」、「女性活躍の推進」すべてのプログラムが重要だと考えています。このクラブは社長からフロント、チームまで全員の意識が非常に高く、同じ方向を向いている。だからこそ、どの活動にも全力で取り組めているんだと思います。
——選手が活動に積極的という部分は、組織としての意識の高さによるものなんですね。現役時代に活動されていた梶山さんの存在も大きいのではないでしょうか?
梶山)フロントとチームのコミュニケーションがしっかり取れていることは、大きいと思います。例えば、「女性活躍推進のためにこういう思いで取り組みたい」と伝えると、チームがその思いをきちんと受け止めてくれるんです。だからこそ、一つ一つの活動に気持ちを込めて取り組むことができる。そういう関係性が築けているのは、うちのクラブならではと感じています。
——選手がオフコートでの活動に向き合ってくれているというのは素晴らしいことですね。
梶山)(横にいたデニスHCを見て)ショーンさんの練習はすごくしんどいですし(笑) スケジュールをこなすのも簡単ではないですが、選手たちはドルフィンズスマイルの活動に対して本当に前向きに、楽しみながら参加してくれています。
——佐藤卓磨選手は絵本を出版し、子どもの施設に寄贈していますよね。
須賀)佐藤選手は自身の社会貢献プログラム「シュガプロ」を前所属クラブから継続、自身でも積極的に活動しています。佐藤選手の絵本「ぼくはキリン」には、「誰にでも強みがあるよ」という佐藤選手のメッセージが込められています。名古屋に移籍してすぐに「名古屋の子ども達に何かぼくにできることはありませんか?できれば絵本を1,000冊寄贈したいです」と相談してきてくれたことをとても鮮明に覚えています。そうした自主的に活動している選手がいることは私たちにとっても大きな励みです。また、アンバサダーの選手達はもちろん、アンバサダー以外の選手も活動の内容を理解して、自然と動いてくれます。シーズンの始まりに行うファミリートレーニングの場では、全選手、スタッフに向けてドルフィンズスマイルの活動方針について話をし、活動に対しての想いを理解してもらう機会を設けています。梶山さんがその意図をしっかり伝えてくれているので、選手派遣の依頼を断られることはほとんどありません。
©NAGOYAD
——再びデニスHCにお伺いします。先ほど、子どもたちに対する言葉がありましたが、クラブとして児童虐待防止啓発のオレンジリボン活動を行っていますね。
デニスHC)私たちは「地域社会が誇りに思えるようなプレーをしよう」と言っています。注目を集めることで発言力が増し、社会課題に関心を持ってもらうことができます。それらの活動の一つに、オレンジリボンがあります。私たちの活動によって、誰かが虐待を止めるきっかけになるなら、本当に意義のある成果だと思います。
オレンジリボンを着用して試合に臨むショーンHCたち
©NAGOYAD
ブースでの啓発活動
©NAGOYAD
——最後に今後に向けての思いを教えてください。
須賀)選手にもいつも伝えていますが、ドルフィンズスマイルは「楽しむこと」が大切です。楽しみながら活動に参加したら、社会課題解決に繋がっているという仕組みは今後も変わらず大切にしていきたいです。SDGsにはゴールがありますが、ドルフィンズスマイルには終わりがありません。地域に社会課題がある限り取り組みを続け、もし、災害などが起きてしまったときに、「ドルフィンズがあってよかった」と思ってもらえる存在を目指します。地域の皆さまに誇りに思ってもらえるクラブであり続けるため、これからも活動を続けていきます。
飯塚)私も同じ思いです。今後はプロジェクトをより内容の濃いものにしていきたいと考えています。深く掘り下げることで、ファンの皆さまにもより関心を持っていただけるような取り組みを進めていきたいと思っています。
デニスHC)選手には、自分たちが日本だけでなく世界でも注目される存在であり、その影響力を地域に還元する責任があることを理解してほしいと思います。活動を通して力をもらい、地域に良い影響を与えることは大きな喜びになるはずです。選手のリクルートにおいても実力だけでなく、人間性を重視し、「良い選手であり、良い人であること」を大切にしています。
梶山)ただ続けるだけでなく、一人一人が思いを持って取り組み、その姿勢を発信することが大切です。ゴールがない活動だからこそ、クラブ全員が同じ方向を向いて意識高く取り組んでいきたいと思います。「ファミリー」という言葉が示すように、支え合い、同じ目標に向かって頑張ることこそが、ドルフィンズらしさなので引き続き大切にしていきたいと思います。
©NAGOYAD