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2017.04.07

チームの真の実力を表すデータが存在!? アナリスト視点でB.LEAGUEを見よう(1)

  • COLUMN

編集◎スポーツナビ(元記事)

全60試合のリーグ戦も佳境に入り、B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-17(以下、CS)までいよいよあと2カ月を切った。B.LEAGUE(以下、Bリーグ)初代王者が決まるCSに向けて、大会ナビゲータに就任したバスケットボール解説者の佐々木クリス氏協力のもと、プレーデータを活用したCSの楽しみ方を連載形式でご紹介する。

本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。イメージや評論だけではなく、「数字」を介してこそ見えてくることがあるのも事実だ。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。

文◎佐々木クリス

■ NBAでは「10」を超えるとファイナル制覇の指標

みなさん、こんにちは! 大会ナビゲーターの佐々木クリスです。

さて、B1では東地区から栃木ブレックス、アルバルク東京がCS出場決定、中地区、西地区ではそれぞれ川崎ブレイブサンダースとシーホース三河が地区優勝をすでに決めてCSの枠は確実。今後、シーズンの焦点は中地区、西地区の2位争い、そしてワイルドカード争いに。そして当然、残留圏内にとどまろうとするチームの生き残りを懸けたプライドのぶつかり合いも見逃せません。

ナビゲーターとしての僕の強みは、分かりやすくバスケットボールを観戦するための「共通言語」として数字やデータを活用することです。数字は観戦時の印象や考察の裏付けになるばかりでなく、今まで光の当たらなかった事象まで照らし出す強力なツールにもなります。数字が全てではありませんが、少しでも多くの視点を皆さんに提供し、好奇心を駆り立てていければと思っています。初めてのコラムでは、試合数も残りわずかとなったリーグ戦の傾向から、B1に所属する18チームの“真の実力"を検証したと思います。

真の実力を表す数字、それは「NETレーティング」です。NETレーティングとは、比較するチーム同士の攻撃回数を均等にした同一条件下の平均得点、平均失点の差異=得失点差と覚えていただいていいでしょう。アナリスト界隈では通常、攻撃権は100回で統一されています。この数字を導きだすことで、チームがリーグの中で相対的にどのような力を持っているのかが見えてきます。

NBAの場合、10を超えてくるとファイナル制覇がかなり現実的になります。昨年は82試合あるレギュラーシーズン中に73勝を挙げたゴールデンステイト・ウォリアーズがNBA記録を更新しました。その前の記録である72勝を達成していた「かのマイケル・ジョーダン率いる1995-96シーズンのシカゴ・ブルズとどちらが史上最高のチームなのか?」という議論が活発になされましたが、昨季のウォリアーズのNETレーティングは11.6。72勝ブルズは12.3とわずかながらブルズが上回りました。時空を超えた対比にロマンを膨らますファンも多かったことでしょう。

■ チームの力を計る上で重要な指標「得点効率」

さて、普段みなさんがチーム力を比較する上で参考にしている指標やスタッツは何でしょうか?

一番身近なものは平均得点と平均失点の2つになると思います。この2つは攻撃力、守備力の指標として紹介されることが多いですが、バスケットボール分析の最先端では、チームの力を計るためのデータとしては不完全であるという考え方が浸透しています。

ここでぜひ一緒に考えていただきたいのは、40分間の試合のうちにマイボールにしてからシュートやターンオーバーなどのミスで終わる攻撃の回数が70回のスローペースで戦うチームと、早い展開を好んで90回の攻撃権を使うチームが共に平均100点を挙げるチームだとすれば、どちらのチームがより得点することに長けているだろうかということです。

恐らく70回の攻撃権で100得点を生み出すチームの方が、効率よく攻めているとの結論にいき着くはずです。70回の攻撃で平均100得点を挙げるチームは1回の攻撃あたり1.43点生む力を有し、90回の攻撃で平均100得点のチームは1.11点です。1試合の平均得点では同等の攻撃力と解釈されかねない両チームの攻撃力には、大きな開きがあることが分かっていただけたと思います。

「大きな開き」と表現したのには理由があります。バスケットボールという競技においては2Pシュートならば、2回に1回入る、3Pシュートならば3回に1回入る1.00が理想です。ですから先ほどの例では両チーム共に攻撃的と分類できる上、1回の攻撃における力の差は1.43-1.11=0.33。共に守備は完全に互角と考えた場合、40分の試合でBリーグの平均に近い80回攻めると、0.33×80=26.4得点分の攻撃力の差となるのです。この得点を挙げる上での効率性は、今や狙うべきシュートの質=シュート・セレクションを語る上で欠かせない要素となっていることをぜひ覚えておいてください。これが「得点効率」、または「得点の期待値」という概念になります。

■ A東京と仙台には20.9点分の開きが存在

次に、守備においての目的は「いかに失点を少なくするか?」であるならば、「いかに相手の得点効率を低くするか?」と置き換えられます。

攻守における効率性は、全49試合(26節終了時点)を戦ったひとつのB1クラブの総得点or総失点÷49試合での総攻撃権数で算出できます。しかし、B1には幸い開幕からバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」が導入されており、この攻守の効率を数値化してくれています。

「Synergy」から算出したBリーグにおける1回の攻撃権あたりの得点効率の平均は0.891点。Bリーグの理念のひとつに「世界に通用する選手やチームの輩出」が掲げられているので参考までに紹介すると、世界トップクラスのリーグ、スペインACBは0.956点、世界最高峰NBAにおいては0.97点とかなり1に近い数字となっています(※スペインACBのチームがNBAチーム相手に同等の効率を発揮できるということにはなりません。あくまでもリーグ内の相対的な数値です)。

それでは、チームの“真の力"をいかに導き出すのか?

まずは、1回の攻撃あたりの得点効率、引くことの1回の守備あたりの相手の得点効率により攻守の差異を抽出します。A東京を例にすれば、攻撃0.964-0.86=0.104となります。リーグ平均の効率は0.891で、これは攻撃、守備でイコールになります。攻撃ではこれを上回ればリーグ平均以上の攻撃、守備では下回ればリーグ平均以上の守備となります。

攻守において平均よりも良い数字を出しているA東京ですが、プラスマイナス0.104という数字にピンと来る方は少ないかもしれません。1回の攻撃あたりの値であるため少ない数になるのはいたし方ありません。そこで最初に紹介した通り、100回の攻撃権(ポゼッション数)を全チームが得たという同一条件下に置き、これをチーム真の力=NETレーティングとしてランキングにしたものが記事冒頭の図表となります。

A東京の場合は1回攻めて、1回守ると0.104点差。これを100回攻めたとして、10.4点分プラスに転じる力があるということ。プラスマイナス0に近ければ近いほど平均的なチームという考え方で、A東京は平均的なチームと100回の攻撃権があったペースで試合を進めると10.4点上回るチーム力であることが示されています。仙台89ERSファンにとっては残念な事に、A東京と試合をした場合は-10.5(仙台)、+10.4(A東京)、と両チームの力には100回の攻撃権あたり20.9点分の開きがあると、試算ではおおよそ考えられます。

また、攻守の効率性の平均を基準に、クラブが攻撃型なのか、守備型なのかも分類することが可能となります(※図表の右部分参照)。

■ 数値に表れる千葉の試合巧者ぶり

さて、このNETレーティング・ランキングをご覧いただいて、皆さんはどのような考えを持ちますか?A東京の優勝決定?まあ、焦らないでください。

第26節終了時の勝率と照らし合わせると、さらに面白い考察が生まれます。例えば、攻守TOP5の効率性を見せるクラブはA東京、三遠ネオフェニックスの2つだけで、勝率5割台でありながら三遠のバランスの良さは期待感を抱かせます。上向きのチーム状態のままCSに進出となれば決して侮れない存在です。

川崎、三河は攻撃的と分類できます。今は横綱相撲を取っている印象がありますが、2チームの守備力にはまだまだ使っていないギアがあるのかどうか? ここがCSでは大きな鍵になりそうです。

事実、1月に行われたオールジャパン(天皇杯)では、準決勝、決勝で三河、川崎を立て続けに破った千葉ジェッツが見事プロクラブとして史上初の栄冠をモノにしました。千葉のディフェンスが素晴らしかったのは言うまでもありませんが、むしろ攻撃的な2チームを上回る攻撃の流れを維持し続けられた千葉の攻撃を僕は評価しています。そのバランスの良さがバランス型として数値にも現れていますね。

実際、52-56などといったロースコア・ゲームでは選手の個人能力が圧倒的にものをいいますし、攻撃的なチームは1~2本シュートを決めるだけで一気にたたみ掛けてきます。千葉は相手の得点をストップするばかりか、自分たちの攻撃でよどみなく得点を重ねることで、さらに攻守のリズムを増長させていったと考えられます。大きな要因はピック&ロールと呼ばれる連係プレーと、そこから派生する3Pシュートの質ですが、この解説はまた別の機会にじっくりとご紹介したいと思います。

■ 下位チームでも守備的チームはチャンスあり!?

さてランキングに戻って、まだまだ底が知れない上に基盤もしっかりしているチームは栃木です。今のB1においては、栃木の守備は思考というよりDNAレベルにまで到達していると感じさせます。攻撃面ではまだまだ爪を隠している節も多く、大きな伸び代を残すと思えば、NETレーティング5位でありながら8割を超す勝率は当然かつ、末恐ろしいものです。

ワイルドカード争いをしているクラブの中では、琉球ゴールデンキングスがリーグTOP3に入る守備力を武器にNETレーティングでも8位と健闘。本来ならば勝率5割のチームと考えてもいいでしょう。琉球のバスケ熱の高さは重々承知しているつもりで敢えて書くならば、守備ファーストのチーム文化に若手の成長が加われば攻撃の改善もなされるはずで、例え今季CSを逃したとしても全てが失敗だったと落胆すべきではありません。

その琉球と西地区の2位を争う大阪エヴェッサも数字的には守備的ですが、シーズンが進むにつれ攻撃面も向上しています。僕の考えでは、攻撃は連係面を含めて向上の余地があると思っています。大阪の場合はけが人の復帰や途中加入の選手の貢献もプラスに作用しているはず。逆にシーズン序盤から守備に難があるチームが一気にこれを改善する特効薬というものはなかなか見つけにくいかもしれません。個人的には下位チームでも守備的な方が、チームに可能性を感じてしまいます。

今季ジャイアント・キリングも見せる守備的な秋田ノーザンハピネッツも、全体的なシュート力さえ安定していればNETレーティングや勝率ももっと上がったと考えられるクラブです。レバンガ北海道にも言えますが、3チームがNETレーティングTOP5に入る強豪ひしめく東地区にいる事が数字の低下に影響しているのは間違いないでしょう。

さて、NETレーティングがおおよそ勝率を反映する形になった今回のランキングですが、気をつけなければならない点があります。それは対戦相手の強さです。

NETレーティングTOP5、勝率でもTOP5に入るチーム同士の対戦での勝率は、A東京.466、三河.625、川崎.500、栃木.625、千葉.250(天皇杯以降の栃木戦は1試合のみ)となっている上、お互いに100回攻めても3.6得点分しかない力の差で密集しています。この5チームだけのリーグ戦があれば、NETレーティングの数値も変わってくるはずです。

さあ、A東京優勝宣言には待ったが掛かりましたね。本当のゲームで3点差の展開は最後の1秒まで勝敗が決まらない超接戦です。バスケファンならば誰もが望む白熱のゲームでしょう。史上初のBリーグCSは、歴史的ゲームにあふれた熱戦ばかりになる事が期待できそうです。

(グラフィックデザイン:相河俊介、編集:スポーツナビ)

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