ダビー・ゴメス“狂騒曲”で勝ち切ることができるか? 富山グラウジーズ、いよいよプレーオフへ
今季B2東地区で、38勝22敗(勝率.633)の成績で2位に付けた富山グラウジーズ。1シーズンのみでのB1返り咲きを期すプレーオフではクォーターファイナルのホームコートアドバンテージを手にしており、5月3日(土)からベルテックス静岡を相手にその戦いをスタートさせる。
☆りそなグループ B2 PLAYOFFS QUARTERFINALS 2024-25 北陸コカ・コーラpresents富山グラウジーズ vs ベルテックス静岡(5月3日・4日・5日)情報ページ
今季の富山は非常にフィジカルでアグレッシブなリバウンドとトランジションを武器に、リーグ2位の平均88.4得点という破壊力を誇るチームだ。スピード感にあふれた富山のバスケットボールは、プレーオフに進出したチームの中でNo.1のペース(77.7)というデータもある。対戦相手を力でねじ伏せ、地ならししながら前進するブルドーザーのような今季のグラウジーズに、力強さを感じているファンも多いのではないだろうか。
スタッツランキングを覗いてみると、富山の外国籍プレーヤーはアーロン・ホワイトが17.1得点で4位、ユージーン・フェルプスが16.3得点で7位、ミッチェル・ワットも15.7位で10位と、いずれものトップ10に名を連ねている。彼らの貢献はオフェンス面だけではない。フェルプスはリバウンドもリーグ6位の平均10.0本。ワットもブロック部門で平均1.1本が5位にランクイン。ホワイトは平均1.4スティールがやはりリーグ6位の好数字だ。
レギュラーシーズン・フィナーレの福井ブローウィンズ戦で得点を狙うユージーン・フェルプス。愛媛オレンジバイキングスに所属した昨季はB2得点王に輝いたフォワードだ(©B.LEAGUE)
活躍が数字的にわかりやすいのは外国籍勢だけではない。帰化枠のトーマス・ケネディはフリースロー成功率がリーグトップの88.6%で、3P成功率36.5%もリーグ6位。ビッグガードの宇都直輝は平均4.2アシストが同ランキング6位。彼らはいずれもほとんど欠場することなく、シーズンを通じてチームを支え続けてきた。そこに後半戦では、身長205cmのマシュー・アキノがアジア枠で加入。富山のビッグラインナップはさらに威力を増し、かつまだまだ発展途上と言える楽しみに状態だ。
数字面だけでなく精神的にもチームの支柱となっている宇都直輝(©B.LEAGUE)
しかし、この富山のB1昇格への道を見守る上で一つ気にかかる点がある。
ケネディを擁しながらチームとしてリーグワーストの3P成功率(29.7%)でも、まだポテンシャルの全てを発揮し切れていないアキノがどれだけフィットするかでもない。テクニカルファウルの“常連”となっているダビー・ゴメスHCのベンチワークだ。
Bリーグ公式サイトのボックススコアをたどると、ゴメスHC率いる富山のベンチは、今季の60試合のうち17試合で計21回テクニカルファウルを宣告されていた。そのうち「コーチファウル」と表示されたものが20回、「ベンチファウル」というのが1回ある。ゴメスHCはシーズン中3度、テクニカルファウルによる懲罰対象となっており、それにより計6試合の出場停止と計35万円の罰金を言い渡されている。
直近のケースは4月12日にアウェイで戦った熊本ヴォルターズ戦で、2Qに2つのテクニカルファウルを宣告され退場。このケースでの懲罰は罰金20万円に4試合の出場停止だったので、富山は翌日以降に組まれていたレギュラーシーズン最後の3試合を指揮官抜きで戦わなければならなかった。ゴメスHCはクォーターファイナルのゲーム1でもベンチには入ることができない。
事ここに至ると、ゴメスHCのベンチワークが富山の運命にネガティブな影響をもたらす可能性を懸念せざるを得ない。
ゴメスHCをベンチのスタッフやプレーヤーたちは、現実問題としてすでにゴメスHCの特徴を知っているだろうから、指揮官不在の際にどんな対応をすればよいかもわかっているかもしれない。クォーターファイナルはホームのありそドームで戦えるし、コーチが何を言おうがコートに立つのはプレーヤーだから、心配しすぎる必要もないのかもしれない。しかし、チームとして最も重要な戦いに臨む時が来ているのに、トップ不在で大丈夫と思ってしまっていいだろうか?
テクニカルファウル乱発——言動の真意
そもそも、これだけ懲罰を受けてきたゴメスHCの試合に対するアプローチは正しいのだろうか?
4月12日の熊本ヴォルターズ戦より。ダビー・ゴメスHCはテクニカルファイルを2度宣告され退場となり、翌日以降4試合の出場停止と20万円の罰金を科された(©B.LEAGUE)
海外のプロリーグでは、コーチが罰金覚悟でレフェリーに食って掛かったり不満をメディアに対して遠慮なく語るケースもたびたびあるので、大騒ぎする必要はないという見方もあっていいのかもしれない。ゴメスHCは「日本の発展のためにも言うべきことを言う」と話したこともあった。そんな見方をされるほど、日本のバスケットボールには、プレー面でもレフェリーのコールでも改善の余地が多くあることも、認めるべきではあるだろう。ただ、レフェリーを必要以上に敵に回し、結果として士気を上げていきたいチームに水を差しかねないような言動があるとすれば、見ている側としてはやはりその手法に疑問を呈したくなる。
誤解のないように記しておきたいのはゴメスHCの人柄だ。会見では、その日の試合がいかにマネジメントされていたかについての不満を含め言いたい放題を語ることはあっても、記者との会話を荒げようとするようなことはない。去り際には笑顔で「Thank you」と声をかけ、記者の肩をポンと叩いていくような、親しみ深さがある。
ゴメスHCとやり取りするたびに、この人は伝えたい気持ちを感情豊かに発言し、記者からの質問に誠実に応答しているのだとも感じる。チームを燃えるような情熱で鼓舞したい気持ちも十分理解できる。会見での様子と同じように、ベンチでも素直に気持ちを表現しているだろうことは想像に易い。ただ、ゴメスHCの真意を汲むには、異文化の世界からやってきたスペイン語のネイティブ話者で、記者への応答を英語で行い、日本語への通訳を介した内容が広く伝わっていることも考慮する必要があるだろう。言葉尻以上に、しっかり視線を合わせて気持ちや考え方を汲み取らなければ、ゴメスHCの発言は時として、単にその会話の相手や試合にかかわる人々の心理を荒らすだけになってしまう可能性があると感じる。
王者の資質を証明するプレーオフ
指揮官の試合に向かうアプローチは言うまでもなくチームの最重要事項だ。ゴメスHCはベンチテクニカルでたびたび懲罰を食らい、会見で歯に衣着せぬ発言を繰り返しながら、チームにB1復活の機会をもたらした。ゴメスHCの“狂騒曲”とでも形容したくなるような富山の2024-25レギュラーシーズンは、ここまでは成功している。
しかし、このアプローチは正解なのだろうか? 最後に勝ち切る力をチームにもたらすことはできるだろうか? 昨季、滋賀レイクスを率いてB1昇格とB2制覇を成し遂げたゴメスHCは、今季中に「私はチャンピオンです」という言葉も残している。それを証明するときがやってきた。