2025.05.20
「正直、良いイメージはない」──因縁の地で因縁の相手を倒した宇都宮ブレックスは最終決戦で答えを出せるか
日環アリーナ栃木でシリーズ突破を決めて喜ぶ彼らの姿は、まるで1年前の呪縛から解き放たれているかのようだった──。

2度の延長戦の末敗退…
“あの負け”から始まった1年
2024年5月13日、宇都宮は千葉ジェッツとのチャンピオンシップクォーターファイナルのゲーム3を93-103で落とし、シーズンを終えた。この年はリーグ首位の51勝9敗の成績を収めていたが、ワイルドカード下位でCSに滑り込んできた千葉Jとのシリーズは白熱の展開に。初戦を70-82で落とすと、ゲーム2は67-58とバウンスバックに成功。しかし、運命のゲーム3は2度の延長戦にもつれ、その10分間だけで富樫勇樹に3本全ての3Pシュートを射抜かれる圧巻の勝負強さを見せつけられ、敗れ去った。
「この体育館で去年、千葉Jに負けてシーズンが終わりました。あそこから僕らの今シーズンは始まっているので。また同じメンバーで戦える機会があるので、この絶好のチャンスを奮え上がって、去年の借りを返しに行かなきゃいけないです。それを悔しいと思わない限りは、一生このファーストラウンドの、チャンピオンシップの壁は超えられないなと思います」
この言葉は、レギュラーシーズン最終節のゲーム1後に、渡邉裕規が語ったものだ。
失意の敗北から1年が経ち、彼らは同じくリーグNo.1シードとして約束の舞台に戻ってきた。クォーターファイナルの相手はシーホース三河。西田優大やダバンテ・ガードナーら強力なタレントを擁するチームに苦戦する場面も見られたが、ゲーム1では高島紳司がステップアップ。タイムリーな3Pシュートを次々に沈め、今季2番目の14得点を記録し勝利に貢献した。続くゲーム2は比江島慎の18得点を筆頭に5人が2桁得点。チーム全体で28アシストを記録するバランスの取れた試合運びで三河をスウィープした。
ここでまず、渡邉が話した「クォーターファイナルの壁」は突破したわけだが、次のラウンドこそ、彼らが真に越えなければならない壁だった。千葉Jとの再戦だ。

今季は開幕節の連敗を含めてレギュラーシーズンは1勝3敗。千葉Jには言わずもがな1年前に彼らに引導を渡した富樫がおり、クォーターファイナルまで欠場していた渡邊雄太も復帰。ジョン・ムーニーやクリストファー・スミスといった知った顔も健在で、彼らがフルメンバーで40分間戦うのは今季開幕戦以来のことだ。ゲーム1を宇都宮が、ゲーム2を千葉Jが取り、決着は昨年同様にゲーム3にもつれた。
最終戦で鬼気迫るパフォーマンスを見せたのは宇都宮だった。ガード陣を中心に前から激しくプレッシャーをかけ、ピックにはビッグマンも懸命に足を動かしてブリッツ、さらには相手の死角から手を伸ばしてボールを奪うなど、前半だけで9スティールを記録し、それ以外でも千葉Jのターンオーバーを次々に誘発。前半で17ものターンオーバーを引き出した。それでも10点差前後で食らい付いてくる千葉Jに、一時2ポゼッション差まで迫られた。だが、最後は比江島の3Pシュートやグラント・ジェレットのハイパフォーマンスに引っ張られ、82-71で突き放してファイナルへの切符を手にした。


前述した最終節で、渡邉はこうも話していた。
「正直に言うと、この体育館(日環アリーナ栃木)に良いイメージはない」
この言葉の大部分は、昨年のチャンピオンシップ敗戦のイメージから来るものだと推察されるが、その悪いイメージを払拭するためには、どうしても同じアリーナで千葉Jを倒す必要があった。
「去年ここで3戦目にダブルオーバータイムで負けて。オーバータイムは特に退場者(ファウルアウト)も出て、勝てる状況じゃなかったです。それをやっぱり…この体育館でもしかしたら千葉Jとまた当たるかもしれない。(もし実現すれば)そんなチャンスはもう2度と来ないんで。さっきも言いましたけど、奮え上がって勝ちに行かなきゃいけないなって僕は思いますね。またこれで去年みたいな状況を作り出してしまったら、この1年は何のためにやってきたのかを考えなきゃいけないぐらい重大なこと」
今年2月に亡くなったケビン・ブラスウェルHCは今季を「千葉Jに負けたところからスタートしている」と表現していた。渡邉の言葉も、ブラスウェルHCのものを引用し、シーズンを通してことあるごとに話してきたもの。
日環アリーナ栃木で宿敵を倒す──それは、シーズン前には起こりうる可能性があるのかすら分からないシナリオだった。だが、選手たちを含む、昨年の敗戦の目撃者となった全ての人々が心のどこかでそれを願っていたはずだ。そして、そのシナリオが実際に起こり、勝利を収めることができた。これをもって、2024-25シーズンの一つの答えは出せたと言える。
だが、彼らのシーズンはまだ終わらない。ブラスウェルHCの思いも胸に、来週末のファイナルを制したときに初めて、彼らのシーズンに答えが出る。その相手である琉球ゴールデンキングスに、昨年の指揮官だった佐々宜央がアソシエイトヘッドコーチとして在籍しているのも何かの運命だ。
2024-25シーズンの締めくくりにどんなドラマが待っているのか。注目しないわけにはいかない。

記事提供:月刊バスケットボール