2025.05.28
追い込まれた末に発動した“比江島慎タイム”「ただただがむしゃらにリングだけを見た」
鵤誠司が去り際にボソッとつぶやいたこの言葉が全てだろう。最終戦までもつれる死闘となった 「りそなグループ B.LEAGUE FINALS 2024-25」で、ついに比江島慎が爆発した。
ゲーム1、2とは打って変わって前半をリードしたのは琉球。宇都宮のピック&ロールに対してボールマンのディフェンスが徹底してズレを作られず、宇都宮の3Pシュートを消しにかかった。オフェンスではヴィック・ローがミスマッチを突いてポストから次々にスコア。このシリーズで初めて琉球がリード(28-40)して前半を折り返す。
「ドライブレーンはほとんどなかったし、3Pも消されてしまった」。試合後のインタビューで比江島がこう振り返ったように、宇都宮は前半3Pシュート成功が僅か3本。試投数も15本と少なく、ワイドオープンショットはほとんどなかった。
後半はギャビン・エドワーズとグラント・ジェレットのインサイド起点の攻めに切り替えたことで点差を詰めていき、3Qを44-51で終えた。追い上げムードのチームにあって、いまひとつ乗り切れてなかったのが比江島だった。このシリーズは1、2戦目でもディフェンスやゲームメイクでは貢献していたものの、得点面では順に5点、8点と振るわず。レギュラーシーズン44.3%を記録した3Pシュートも2戦目終了時点で2/9(22.2%)と琉球ディフェンスに抑え込まれていた。

初得点は後半に入ってから。3Q残り8分21秒にファウルを受けて決めたフリースローだ。この得点にしても、琉球ブースターのブーイングで1本はミスしており、同2分8秒に決めた初めてのフィールドゴールを含めても、4Qを残して比江島の得点はたったの3点だった。
だが、だからこそともいうべきか、比江島が覚醒する。「もう点差が点差だったので、もう…自分が調子が悪いとかは考えずに、ただただがむしゃらにリングだけを見てプレーしようというふうに切り替えられた」と、追い込まれた状況が彼のスイッチを入れた。
ドライブ、ジャンパー、3Pシュート…最後の10分間で、逆転弾となった残り33.7秒のコーナー3Pを含めたフィールドゴール5本全てを成功させて14得点。圧巻だった。ジーコ・コロネルHC代行は、ゲーム2後の会見でケビン・ブラスウェルHCが比江島のことを「コービー・ブライアントと呼んでいた」と明かした。牙を剥き出しにして相手を仕留めるブラックマンバが比江島──普段の飄々としやプレーぶりや表情、会見で常に髪や頬を触りながら話すその様子は、コービーのそれとはかなり乖離があるが、このゲーム3の勝負どころで見せたパフォーマンスはまさにコービーのそれだった。


「4Qは、2日前に比江島選手がやってくれると話した通りのすばらしいパフォーマンスでした。だから、僕たちは彼のことをコービーと呼んでいます」
コロネルHC代行はニヤリと笑い、比江島のパフォーマンスを称えた。比江島は4Qの自身のプレーについて「そのメンタルで第1戦からやっていればもっと簡単にチームを勝たせることができたかもしれませんけど、でも、それまで自分のことを信じて使ってくれたジーコもそうですし、チームメイトも自分のためにスクリーンをかけたり、スペースを空けてくれたりといった状況を作ってくれました。だから、強気でプレーするという気持ちとチームメイトのためにという思いと、ケビンのためにという思いと…。4Qはそれを思い返しながらプレーしました」と振り返っている。
集まったブレックスネーションにとっても、冒頭の言葉を漏らした鵤らチームメイトにとっても、土俵際まで追い込まれなければ仕事を“してくれない”比江島には、何度も肝を冷やされたことだろう。
だが、そんなときにいつもチームを救ってくれたのもまた彼であり、(オフコートも含めた)そのギャップの大きさが比江島が人々の心を鷲掴みにして離さないのだろうと、改めて感じさせられる10分間だった。
「終わり良ければ、じゃないですけど…」
比江島慎の伝説がまた一つ増えたゲーム3だった。

記事提供:月刊バスケットボール