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2025.08.28

神戸ストークスを高みへと導くために招聘された川辺泰三ヘッドコーチ、築き上げるのは『ストークスプライド』を備えた戦う集団

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川辺泰三

コーチングキャリアをスタートさせたファイティングイーグルス名古屋でチームの変革期に深く携わり、ヘッドコーチとしてB1昇格、2年連続の勝率5割を達成した川辺泰三。川辺が次なる挑戦の場所に選んだチームは、今シーズンはB2最後の王者を目指し、2026-27シーズンから始まるBプレミアで躍進を狙う神戸ストークスだ。FE名古屋で培ったこと、神戸で成し遂げたいこと、目指すチーム像について語ってもらった。

「本当に大切な8年間だったなと思います」

──まずは昨シーズンを振り返っていただけますか。

アーロン・ヘンリーの病気や新規加入選手の離脱などが重なり、12試合くらいはオンザコート1での戦いでした。年内はチームビルディングに注ぎ、後半は徐々に勝率が上がってきて結果として2年連続で勝率5割以上を達成できたのは、選手やスタッフ、そしてサポートいただいたファンの方々のおかげだと思っています。

──8シーズン在籍したFE名古屋で学んだことを聞かせてください。

僕が加入した当初、FEは豊田通商という企業の部活で、所属する選手はみな社員でした。練習は18時から20時まで、出張や会議が重なれば5対5もできない状態からのスタートでした。そこを前アシスタントゼネラルマネージャーの坂東武幸と「夜に練習ができないなら朝練をやったら良いんじゃない?」と話し合って改革を進めていきました。選手も徐々に競技に専念できるようになってきて、B1に昇格した時にはほとんどがプロ選手に。部活からBリーグのプロチームになっていく姿を見届けた8年でした。

在任中には、天皇杯で3回戦まで勝ち進む、アルバルク東京さんに勝利するなど、創部60余年の歴史で初めての経験をたくさんさせてもらいました。もちろんB1のチームに勝つことも初めてで、コーチとして大きく成長させてもらいました。本当に今振り返っても感謝しかない。本当に大切な8年間だったなと思います。

──部活からプロチームに変化・順応し、チームカルチャーを作っていくことは簡単なことではありません。気をつけていた部分はありますか?

社員選手で構成されていた当初は、仕事で疲れている選手に「自主練、頑張れよ」とはなかなか言えませんでしたが、その後、会社が選手を出向扱いにし、練習時間を確保できるようにしてくれました。チームが強くなるために、会社には本当に尽力してもらいました。

その上でどのようにウィニングカルチャーを作っていくのか、というところにフォーカスをしました。口で言うのは簡単ですが、根付かせていく、チームが勝つことが当たり前になっていく、というのは本当に難しいことなので、まず自分たちでコントロールできるところ、つまりディフェンスにフォーカスしました。

──くわしくうかがえますか。

FEは僕が加入する前からトランジションオフェンスのチームだったので、そのスタイルを守りながらディフェンスを強化していきました。ディフェンスは自分たちでコントロールできるものなので、まずしっかりとエフォートしようと。オンコート、オフコート関係なく、選手たちは勝つためにどれだけ自分ごとにして、どのように自主練に取り組んでいくのか。そしてコーチたちは選手にどのような言葉をかけていくのか。新しいコーチや選手が増えていってもこのような共通認識を持って、坂東とともにポジティブな言葉をかけ続けていけたことが本当に良かったのかなと思います。

──8年間で印象に残っている選手は?

さまざまな良い選手がいたのですが、今シーズンFEに戻ってきたジェレミー・ジョーンズの、背中ですべてを物語るストイックさには目を見張りました。遠征先に自分で料理を持参して、食事の管理をしたり、「ブレックファーストチームだ」と言って朝7時から選手を何人か集めて自主練を始めたりなどチームに貢献してくれました。日本人選手だと石川海斗(現・熊本ヴォルターズ)は昇格するときにリーダーシップを見せてくれた選手です。また、FE名古屋を語る上で宮崎恭行(現・三重ヴィアティン)は欠かせません。最後まで社員選手として残ってくれた彼こそが『ミスターFE名古屋』なのかなと。伝統の中で頑張ってきた選手と、海外から来るエリートたちが同じ方向を向いて進めたのが、FEの良さだったと思います。

川辺泰三

「可能性があるチームなので化けさせたい」

──今シーズンから神戸ストークスで指揮を執ります。甲南高、甲南大で学んだ川辺ヘッドコーチにとって、兵庫県と神戸市はゆかりの深い場所ですね。。

そうですね。神戸、兵庫は僕をバスケットボール選手として成功させてくれた場所なので、恩返しをしたいという気持ちは強いです。

──九里大和ゼネラルマネージャーは目標としてB2優勝を掲げていますが、達成するために必要なことは何だと思いますか?

チームとしては『B2優勝』『日々成長』『ウィニングカルチャー』の3つのゴールを掲げています。僕自身がFEでB2優勝しB1に昇格した初年度に感じたのが、インテンシティやフィジカルの差だったんですね。アルバルクさんと練習試合させてもらった時、B2と同じように戦術をやろうとしても壊されたり、遂行できなかったり、リバウンド、ルーズボールでシンプルな50-50のボールを取られたときにそれを痛感しました。やっぱり「何が一番大事なのか?」となった時に、バスケットをするということも大事だけど、まずは戦うこと。インテンシティを高く持ち、コントロールできることをやり遂げるカルチャーを作り上げることが今は一番重要だと思っています。

──川辺ヘッドコーチならではの気づきですね。

チームに合流してから「自分たちのチームはどういったチームなのか」ということを言語化し、それを『ストークスプライド』と名付けました。これは、『ボールプレッシャー』『リバウンドと、ルーズボールへのダイブ』そして『ポジションファイトと、コート上でのトーク』、この3つで構成されています。これらが練習中にできていなかったら「ストークスプライドが足りていない」と、うるさく言っています(笑)。

ストークスプライドがしっかりとした土台になったところで、強固なディフェンスからトランジションに移行できるチームを作ろうとしています。オフェンス、ディフェンスともにコンセプトをしっかり理解させた上で、どれだけディテールと勝ちにこだわっていけるのか、質を求めていけるのかというところを年内最後から年明けまでを目安に詰めていけたら良いなと思っています。チームビルドを遂行し、ストークスプライドを40分間、誰が出ても表現できるようになれば、どこにも負けないチームになるんじゃないかなと思っています。

──ストークスに長らく在籍している谷直樹選手や道原紀晃選手は重要な存在になりそうですね。

良い時も悪い時もチームの歴史を知っている人間の存在は、ウィニングカルチャーに繋がります。チームビルドを進めていく中で、ベテランとしての振る舞いや役割を持って接してほしいなと思っています。もちろんコート内でも…谷が37歳、道原が36歳、僕が現役のころには考えられなかったような年齢でもまだバスケができるっていうのは本当にすごいこと。これからも2人はチームに良い刺激を与えてくれると確信しています。

川辺泰三

「伸びしろがいっぱい!楽しみ!!」

──神戸というクラブにどのような可能性を感じていますか?

Bプレミアに向けて、フロントや経営陣がすごく頑張ってくれています。アリーナも含めて素晴らしい環境でバスケットをやらせてもらっていて、本当に先が見えるチームだと感じています。このクラブはBプレミアに向けて、そして3年後の日本一に向けて本気で取り組んでいるクラブ。この組織の一員になれたことを嬉しく思いますし、可能性を感じています。

バスケットの話をすると、新しく入った八村阿蓮と、特別指定時代も含め在籍5シーズン目の金田龍弥。この2人には特に大きな可能性を感じています。谷や道原といったチームの土台になる選手たちがいる上で、彼らのような選手がいることは、チームにとってプラスでしかない。そう言った意味でも、どれだけの強度でバスケットをしなくてはいけないのか、どのレベルまでバスケットを理解しなくてはいけないのか、というところを根付かせていかなくてはいけないと思っています。選手たちは本当に素直で一生懸命頑張ってくれているから、それに応えられるように僕も100%で向き合っています。

──「優勝するために選手を集めたな」という見られ方をしてると思いますが、プレッシャーを感じていますか?それとも楽しさのほうが勝っているでしょうか。

どのチームにいた時も、優勝を目指さなかったことはありません。プレッシャーも恐怖も何もなく、毎回本当に楽しみだなって思っているし、「俺らはどこまでやれるのかな」って思っています。そして率直に言うと、優勝しないといけないなと思っていますし、優勝できるチームだと思っています。だけど今の状態では難しいと思ってるので、どこまでチームを成長させられるかが非常に重要だと思っています。逆に言うと、伸びしろがいっぱい!楽しみ!!

──子供のような表情をされています(笑)。ヘッドコーチにこれだけ楽しそうに言われたら、選手もスタッフも嬉しいでしょうね。

本当にもう、可能性のある選手がいっぱいいますよ。ただ「まだバスケットをきちんと教わってきてないな」「バチバチの中で戦ってきた経験がないな」と感じることも多い。日々成長する中でインテンシティを高く持つことをスタンダードにしなくてはいけないし、その中でどのように自分やチームをクリエイトしていけるか、どうやったらもっとバスケを深く考えていけるのかといったディテールのところはこだわりたい。チームルールについての遂行力もつけたいし、良い判断ができるようにしたい。本当にまだまだ可能性がいっぱいあって「もっともっと良くなるな」「化けたらやばいな」って思っているので、化けさせたいですね。

──神戸を応援してくれる方々に対してメッセージをお願いします。

優勝するために僕たちは集まりました。それでもシーズンには良い時も悪い時もあり、60試合すべてを勝てるわけではないかもしれませんが、そういった悔しさも喜びも共有したいし、僕たちも日々成長できるように努力するので、ファンの皆さんには温かくサポートしてもらいたいです。カルチャーを作ること、そして優勝することが、たやすくないことはわかっています。ただ、その困難な道をファンの皆様と一緒に登って、B2優勝とその先にあるBプレミアでの『本当の日本一』の景色をぜひ一緒に見に行きたいので、ぜひ一緒に頑張りましょう!