伊久江ロイ英輝、「つらい1年」を乗り越えてプロデビュー「この舞台に立てるのはとてもうれしい」
8月30日、川崎ブレイブサンダースはホームの東急ドレッセとどろきアリーナに越谷アルファーズを迎え、2025-26シーズン最初のプレシーズンゲームを開催。ロスコ・アレンが20得点、ドゥシャン・リスティッチが14得点の活躍を見せ、74-63で勝利を収めた。
ネノ・ギンズブルグヘッドコーチ体制2シーズン目に突入した川崎は、ロスター13名中7名が新加入選手。そのうち、レバノン代表のオマール・ジャマレディン、NBA経験を持つエマニュエル・テリー、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」準優勝メンバーでもある元セルビア代表のリスティッチ、「第16回スラムダンク奨学生」の伊久江ロイ英輝がBリーグ初参戦選手で、4名とも越谷戦で本拠地のコートに立った。
26日に21歳の誕生日を迎えた伊久江は、201センチ102キロと恵まれた体格を誇るスモールフォワード兼パワーフォワード。プロでのデビュー戦を「まだまだ」と振り返り、「改善する部分が多くあります。アメリカのスタイルというか、僕がこれまで経験したバスケットボールと比較してかなり違って。Bリーグはハンドチェックがそこまでコールされない印象なので、フィジカルの部分でアジャストしなければいけません」と続けた。
2023年9月にアメリカへ渡り、2024-25シーズンはハワイ大学マノア校に籍を置いたが、大学入学前の2024年6月に右膝前十字靭帯断裂。NCAAの舞台でプレーすることはなく、日本に戻ってプロキャリアをスタートさせた。「つらい1年間でしたけど、ここまで回復してこの舞台に立てるのはとてもうれしいです」
川崎と特別な縁はないというが、高校時代に所属したTokyo Samuraiでは「ここのサブアリーナで何十回も練習しました」。「実家が世田谷区なので、川崎からは近いですね」とも語り、プロ入りを決めた理由を明かす。

高校時代はTokyo Samuraiでプレー [写真]=B.LEAGUE
「アメリカではトランスファーポータル(別の大学へ転校するためのシステム)があり、ハワイ大学は13人が転校して、完全に新しいロスターになりました。そのなかでどのようにプレータイムを勝ち取って、自分の成長につなげていくのか。(昨シーズンは)レッドシャツで、また1年生からプレーすることを考えると、レベルが上がり、トッププレーヤーや元NBA選手が多いBリーグで成長したいなと。また、プロのコーチやスタッフからバスケットボールだけではなく、リカバリーやケアのことを学ぶことも大事だと思ったので、日本に帰ってきました」
ネノHCも伊久江がケガで1シーズンを全休したことを理解しており、「まだ高いレベルのバスケットボールに携わっていない選手。彼のポテンシャルはすごいと思いますけど、育成計画としては少し時間がかかると思います。ただ、すべてにおいて上達する余地があると思います。試合でプレーする場合、まずはディフェンスとリバウンドを頑張ってほしい。一歩ずつ上達していけばいいです」と期待を寄せた。
越谷戦では外国籍選手とのマッチアップも経験。「僕はサイズがあるので、それを活かしていくこと。外国籍選手はスピードより、パワーを使ったプレーがうまいです。フィルムを見て、とにかく勉強して止めるようにするしかないです」と話し、「今は膝への負担があるので、ゆっくりと体を大きくしていきたいと思っています。25歳くらいには106キロ、107キロに増やし、身体能力がありながらスピードもあるプレーをしたいです」と今後についても口にした。
試合後にはコートに残り、コーチ陣とともに「もともと得意ではなかった」という3ポイントシュートの練習にも励んだ。「現代のバスケットボールは3ポイントがないと、通用しないと思います。成功、失敗は関係なく思いきり打って、感覚をつかめるように意識してます」と、プレー面でも腕を磨く。

越谷戦では1本の3ポイントを成功 [写真提供]=川崎ブレイブサンダース
ハワイ大ではジェイコブス晶(現フォーダム大学)とともに時間を過ごした。伊久江は日本代表にも名を連ねる同級生の存在を「親友でありライバル」と捉える。
「オリンピックやアジアカップといった大きな舞台でもプレーする姿を見て、モチベーションにしつつ僕も負けられません。まずはBリーグで結果を残して、いずれは世界にも挑戦したいです」
昨シーズンは苦戦を強いられたものの、途中加入の米須玲音と山内ジャヘル琉人がチームを盛り立てた。下位からの脱却、そして古豪復活へーー。伊久江が川崎に新たな風を吹き込む。

外国籍選手とも積極的にコミュニケーション [写真提供]=川崎ブレイブサンダース
取材・文=酒井伸