2025.10.17
“まさか自分が”新プロフェッショナルレフェリー・内田祥平氏の歩みと哲学
ロジカルとストレングス、キャンプで得た新たな視点
日本バスケットボール協会は7月、新たに4名をJBA公認プロフェッショナルレフェリーとして認定したと発表した。その4名はBリーグ2025-26シーズンの開幕に先立つこと1か月前、リーグが開催した初の「プロフェッショナルレフェリーキャンプ」に参加。4日間にわたるプログラムの一環として、「B.LEAGUE GLOBAL INVITATIONAL 2025」で笛も吹いた。その第2戦、アルバルク東京対NBA Gリーグ・ユナイテッドの試合後に、新たにプロフェッショナルレフェリーとなったJBA公認S級審判員の内田祥平氏に話を聞いた。
レフェリーのキャンプとは何をするものなのか? 実際にゲームを裁くだけでなく、理論面と身体面の両側から審判の在り方を掘り下げる時間だったと内田氏は説明する。初日の座学では「ロジカルシンキング」、つまり一貫性と再現性の高い判定を導くための思考プロセスを実践。それを受けて2日目以降は実戦形式で笛を吹き、最終日は試合後のフィードバックをするという4日間だった。最も印象的だったのは、「ストレングス(体の作り方)に関する講義です」と内田氏。「2時間に及ぶ試合の中で、どう準備し、どう頭を働かせ続けるか。体を鍛えるというより“思考を支える身体”を整えるという内容でした。プロレフェリーの方々と同じ目線で話すことができ、非常に有意義な時間でした」。
3日目に実施されたゲーム後には、上田篤拓インストラクターや他のプロレフェリーたちとともに振り返りを実施。「より良いコールは何だったのか」「それをどう共有するか」を検討する場が設けられた。内田は「この一日一日が次の試合に直結する」と語り、学びを即座に実践に変える姿勢を見せた。

10月4日、A千葉対長崎がプロフェッショナルレフェリーとして初のBリーグゲームとなった
「課題解決」が導いたプロへの道
1979年7月17日、兵庫県加古川市生まれ。ミニバスから競技を始め、中学・高校・大学とプレーヤーとしてバスケットボールに打ち込んだ内田氏。大学卒業後も地元のクラブチームでプレーを続け、バスケが生活の一部であり続けた。最初に審判に興味を持ったのは中学生の頃。しかし、「当時は審判のワッペンの有無で資格が分かれているようで、『審判とはどういう仕組みなのだろう』と漠然とした興味を抱いた程度でした」。実際に笛を持つ機会は30歳手前になるまでなかったのだという。
転機となったのは、クラブチームでの帯同審判だった。大会で審判を務める必要があり、率先して笛を吹いた。「そのとき、協会の方から『もう少し本格的にやってみませんか』と声をかけてもらって。それがすべての始まりです」。2000年代後半、まだBリーグもプロ制度も存在しなかった時代。テレビでたまにJBLの試合を目にする程度で、「プロを目指す」などという意識はまったくなかったという。
ところが取り組むうちに、その奥深さにのめり込んでいく。「僕は元々研究肌なんです。疑問があれば、突き詰めたいタイプで課題を一つずつ解決してきて今があるという感じです。だから“プロを目指した”というより、“課題を解く”過程でここに来た、という感覚なんです」と本音を語った。

「3人で同じ方向を向くことが最も大切なことです」と語る内田氏(写真右)
ゲームを作るのではなく“進める”ことが役割
Bリーグは2018-19シーズンから担当。年々インテンシティが上がる中でのレフェリーは簡単なことではない。最も重視しているのは「同じ基準で吹く」ことだという。「レフェリーも人間なので完全な均一は難しいですが、ルールとガイドラインのもとで、3人の審判それぞれの性格やバックグラウンドを踏まえ、基準を合わせる努力をしています。3人で同じ方向を向くことが最も大切なことです」
さらに内田氏は「主役はチームであり、選手です。僕たちの仕事は、ゲームがルールに則って進んでいるかを見届けること。ゲームを作るのではなく“進める”。選手の感情も把握しつつ、円滑に終わらせる。それが僕たちの役割です」と力強く語った。その役割は重圧も大きいはずだが、「大変なことは特にありません」と言い切るその表情には、職業というより天職に近い充実感がにじむ。
プロフェッショナルレフェリーとして契約した今も、「個人的な目標は特にありません」と語る。「この仕事に終わりはないのです。毎試合、毎日、別の審判と組む。その中で英語力やコミュニケーション能力、あらゆるスキルを磨き続ける必要があります。目標というより、目の前の課題を解くことの積み重ねだと思っています」。内田氏のキャリアを動かしてきた原動力は、一貫して「課題解決」にあった。
「これまで支えてくれた家族、職場の同僚、関係したすべての審判員やインストラクターに感謝しています。これからさらに厳しい世界に足を踏み入れますが、準備を怠らず、感謝の気持ちを忘れずに取り組んでいきたいです」
プロレフェリーとして迎える初シーズン。ゲームの主役ではないが、試合の信頼を支える不可欠な存在として、内田氏は新たな一歩を踏み出す。
取材協力:Bリーグ
記事提供:月刊バスケットボール