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2025.10.25

飛躍に向かう渡邊伶音――「アルティーリ千葉に新しい風を吹かせたい」

  • 月刊バスケットボール

今季からプロとしてアルティーリ千葉のロスターに名を連ねている渡邉伶音。身長206cmの高さがあり、フルコートのトランジションにも積極的に参加できる機動力を備えた万能タイプのフォワードとして、19歳の若さにもかかわらずB1レベルでも早々に活躍が期待されている。

開幕から7試合を終えて4勝3敗のアルティーリ千葉で、渡邉は5試合に出場。平均6分32秒のプレータイムを獲得している。まだまだ「伸びしろばかり」「伸び盛り」の渡邉は、体力や経験で勝るB1のウイングやビッグマンに十分に対抗し切れていないところはもちろん多いだろう。しかし、オフェンスではロングレンジゲームもペイントでの力強いフィニッシュもあり、ディフェンスでは相手の3Pショットをちゅうちょさせるダイナミックなクローズアウトやリム付近で突進してくる相手に立ちはだかるフィジカルなプレーが、チームの助けとなっている。

ここでは、オフ期間に実施したインタビューと今季の序盤戦でのプレーぶりを振り返る。プロ転向と初のB1体験を経た渡邉の成長意欲が伝わる内容だ。

「献身的なプレーも派手なプレーも期待してほしい」

——チームで一番若い渡邉選手にとって、これまでのクラブの歴史とそれに付随する先輩たちの思いを共有してチームで一体となることも大事だと思います。そこについて特に意識していることはありますか?

自分は昨季ちょっとだけ入れてもらったような立場で、クラブの一つの節目となる昨季の最終局面にチームから離れていました。だからこれまでの歴史は知っているものの、年月をかけて自分のチームとして取り組んでこられたほかの皆さんとは、気持ち的なところでちょっと違うところもあるかなということは理解しています。でも、自分としてはそれを理解した上で、2年目というよりも今年が本当の1年目という気持ちで、初めてのチャレンジャーとして頑張ってみたいと思っています。

——昨季の活躍に対するA-xx(アルティーリ千葉ファンの愛称)の反応を見ると、皆さん大歓迎の様子です。A-xxにはどんな選手として認められたいですか?

今季はB1というすごいレベルで、何が起こるか分からない状況です。この時期に、この年齢から入らせてもらって、自分でもきっと壁にどんどんぶつかっていくんだろうなと思っていますけど、そういうときでも戦い続けるつもりです。日に日に自分を成長させて、選手としても人としてもどんどんレベルアップしていきたいので、それを見てほしいなと思います。

——アンドレ・レマニスHCは今季の渡邉選手について、「プロとしてオフコートの姿勢も身に付けていってほしい」というようなことを言っていました。ご自分ではプロとしてこれまでとの違いを改めて感じているところはありますか?

特別指定でやらせてもらっていた昨季と今では状況が変わっています。昨季までは自分以外がみんなプロ選手の方々でしたが、見ていて自分に照らし合わせてみたときに、今までやってきた学生スポーツは、自分がどうであるかにかかわらず明日は来るし、バスケットボールができる環境が当たり前でした。学校に通うこともバスケも当たり前だったんです。でも、これからはプロとしてバスケットボール中心の生活を送るのですから、お金をもらっている責任感を絶対に忘れてはいけません。自分はいい意味で、大学で頑張っている大勢の同級生選手たちと違うんだという気持ちを持って臨まないといけないですね。

——昨季中にお話を聞かせてもらったときに、アジリティー(俊敏性)とか、ラテラルムーブ(横方向の動きの素早さ)を課題に挙げていましたが、その後の強化の手応えはどうですか?

ほんのちょっとかもしれないですけど、今は特別指定の頃よりも手応えを感じる瞬間が増えてきています。でも、うまくいかないことも多いです。コーチには「姿勢が高い」とよく言われます。それは3番ポジションをやる上で絶対に必要ですよね。それだけでなく、もしも4番を守らなきゃいけないときには絶対に低い姿勢で守らなければならないし、5番を相手にしてドライブで抜いてやろうというときも、低い姿勢が基本になると思うので、自分でもそこを強く意識しています。

オフェンス、ディフェンスで課題を考えてみて、自分はこれまでそういうことをあまり意識せずにバスケットボールをプレーしてきていたなと気付かされました。確かに手先でプレーしていたところがあったな、昔から意識していたら苦労しなかったなと思っています。

——夏場の日本代表活動に参加して、どんな手応えを持ち帰りましたか?

A代表でプレーさせてもらうときは、いつもならジョシュ・ホーキンソン選手をはじめインサイドのプレーヤーがいるんですけど、若い選手だけで戦ったカナダ遠征では事情が違っていて、自分は5番ポジションをやりました。その頃は、長い期間A代表に帯同している中で試合に絡む機会がほとんどなかったこともあってか、心拍数とか体力的な部分もちょっと落ちた瞬間があり、自分的にはちょっと悔しい結果で終わったというのが実感です。何かができたというよりは、本当にいつもどおりの最低限のことを、毎試合できたかできなかったか…というぐらいだったんですよね。

——プロになった渡邉選手に、ウイングでピックアンドロールのハンドラーになって、2メンプレーの様子を見ながらリムアタックしてガツンとポスターダンク! みたいなプレーも見たいと思うファンもたくさんいるのではないかと思います。いわゆる「ステートメントゲーム」というようなパフォーマンスをできたらすごいと思いますが、ご自分ではどうですか?

自分は3Pショットもまだまだですけど、狙ってくるというのは周りも分かっていると思います。でも、(リムアタックからダンクのような)相手を倒しにいくプレーも、絶対これから必要になってくると思います。オフェンスでもディフェンスでもどんどん幅広いプレーを目指していきたいですね。いつ自分がそういう完成形になるかは自分しだい。どんどん成長していきたいですし、献身的なプレーも派手なプレーも、期待してほしいなと思います。

ステートメントゲームの兆候

さて、こう話した渡邉は、開幕節の長崎ヴェルカ戦ゲーム1で今季初出場を果たしている。23-28と5点差を追いかけ、杉本慶がフリースローラインに立つというタイミングだった第1Q残り25.6秒が渡邉のB1デビュー。コート上には渡邉と杉本、そして大崎裕太、ルーク・エバンス、デレク・パードンという5人が立っていた。

杉本のフリースローで25-28となり、長崎がこのクォーターの最後のオフェンスを展開する間、渡邊は日本代表の大先輩である馬場雄大とマッチアップ。スタンレー・ジョンソンの鋭いドライビング・レイアップで25-30となり、アルティーリ千葉がオフェンスに転じると、長崎はフルコートプレスで止めにかかる。インバウンドのボールが渡邉の手に渡ると、3人のディフェンダーが群がってきたが、渡邉は落ち着いてフロントランナーとなっていたトレイ・ポーターを見つけてパスをつなぎ、杉本のクラッチ3Pショットへの中継役を果たした。

第2Qが始まってもコートに残った渡邉は、今度は韓国代表のエースと目されるシューターのイ ヒョンジュンとマッチアップした。身長201cmのイはアジア枠として在籍しているウイングで、今季の長崎に大きな強みをもたらす存在だ。渡邉はクォーター開始から1分31秒間プレーしてベンチに戻ったが、コートにいる間イのボールタッチは1回だけで、チームとして大きなダメージを受けることもなかった(±が-2)。この試合での出場機会はこの時間帯だけだったが、うまくプレーして97-94の開幕戦勝利に貢献したと評価できるだろう。

翌日のゲーム2でも、第3Q終盤から第4Q序盤に5分9秒の出場機会を得た渡邉は、B1初得点と初リバウンドを記録した(2得点、1リバウンド)。46-78と大きくリードを許して迎えた第3Q残り2分34秒の登場時、コート上の5人は渡邉のほかに黒川虎徹、前田怜緒、トレイ・ポーター、そしてパードンという布陣。渡邉は第3Qには馬場と、第4Qには山口颯斗とマッチアップした。

B1初得点のシーンは、相手のフリースローミスからのトランジションでトレーラーとしてコートを駆け上がったところにボールが渡ってのレイアップ。前田と黒川の背中を追いかけて突っ走ったこの2得点は、サイズに似合わない機動力の賜物だ。


B1初得点は長崎相手の開幕節ゲーム2だった(写真/©B.LEAGUE)

第4Qの最初のオフェンスでは、右サイドでズームアクションを展開する中で、パードンから黒川へのハンドオフがディナイされたところからボールを受け、ピック&ロールのハンドラーになる場面があった。さあ、自らフィニッシュに行くか? 山口とアキル・ミッチェルのダブルチームに対峙した渡邉は、一つドリブルを突いた後、両者の間を突くバウンドパスをパードンにつなぐ。長崎のディフェンスがバランスを崩したのを察知したパードンは、ウイークサイドでワイドオープンとなった大崎にクロスコートパスを飛ばし、大崎は3Pショットを放った。このショットはリムにはじかれたが、長崎の強力なプレッシャーをはねのけてオープンルックを生み出した一連の流れは、アルティーリ千葉らしくボールと人を動かすオフェンス。うまくつないだ渡邉のプレーも光った。

渡邉は翌週末の越谷アルファーズとの2試合で出場がなかった(ゲーム2はエントリーもなし)が、15日にアウェイで戦った三遠ネオフェニックスとの水曜ナイターでは、キャリアで初めて10分間の出場時間を得た。61-83と22点差のビハインドを背負って迎えた第4Qをフル出場した形だ。

この10分間、渡邉が主にマッチアップしたのは日本代表の吉井裕鷹と高校の先輩である湧川颯斗、そして元NBAのデイビッド・ヌワバら。いずれも大きなチャレンジに違いないが、プレーぶりには落ち着きがあった。

残り5分34秒にはB1で初めて3Pショットを成功させたが、その場面はベースラインからのインバウンドプレーでスローインを行い、アシュリーとパードンのスクリーンを使ってジッパーカットでトップに駆け上がって再びボールを受けてのスウィッシュ。大塚裕土もよくこのセットオフェンスで3Pショットを決めていたが、渡邉もしっかり遂行した。

相手のスウィッチングディフェンスでミスマッチが生じて、児玉ジュニアや根本大といった自身より小柄なガード陣を相手にしてボールを持つ状況になると、すかさずバックダウンしてゴールににじり寄り、ファウルをもらうスマートさも見せた。この日は79-98で敗れたが、渡邉がプレーした第4Qは18-15と上回っている。チームとしても渡邉としても、悪くない終わり方と言っていいだろう。

直近の第4節で戦った富山グラウジーズ戦でも、渡邉は2試合とも出場機会を得たが、13分22秒とキャリアハイを更新する出場時間を得て86-84の勝利に貢献したゲーム2の活躍は特筆に値する。

ゲーム1を落として、レギュラーシーズンではB2昇格初年度の2023年1月に4連敗を喫して以来の連敗という状況で迎えたこの試合は、ぜひともA-xxに勝利を届けたいビッグゲーム。しかも、前日の試合終了直後に感情を暴発させてしまったポーターが出場停止のペナルティを課されていた。サイズとフィジカリティーを強みとする富山に対し、チーム最長身のビッグマンを欠く厳しい状況。最年少の渡邉にも貢献が求められる状況だった。

渡邉は第1Qから出場機会を得ると、最初のディフェンスでマッチアップした宮本一樹に張り付いてターンオーバーを誘う。続くオフェンスではリバウンドに絡んでセカンドチャンスを生み出し、前田の得点につなげた。第2Qにもコートに残った渡邉は、そのクォーターの最初のオフェンスでブレイクに参加し、前田のアシストからレイアップを沈めた。積極性が強く感じられたこの時間帯、次のポゼッションで渡邉は左コーナーからオープンルックの3Pショットを放つ。これはリムにはじかれたが、狙うべきショットを良いリズムで放つことはできていた。その約2分後には、渡邉のディフェンスリバウンドから仕掛けられたブレイクで黒川の3Pショットが炸裂。アルティーリ千葉は攻勢を強めていった。

渡邉はこのクォーターの残り2分26秒にも、杉本のペイントアタックにうまく合わせてカットし、ゴール下でボールを受けてレイアップを沈める。その後、黒川とのアイコンタクトが合わなかったかターンオーバーにつながったプレーがあり、ハーフタイムまで1分4秒を残していったんベンチに下がるが、エヴァンスがフリースローラインに立つタイミングだった残り11.7秒に再度コートに戻ってきた。このときは黒川、エヴァンス、アシュリー、パードンに渡邉の“4ビッグ”。それが特段奏功した場面ではなかったものの、黒川以外全員が200cm越えの5人というのは、今後シーズンが深まるにつれてどんな威力を発揮していけるか想像が膨らむラインナップだった。

「自分もいち早くローテーションに絡んでいきたい」

渡邉の成長はチームとしてのメリットに直結している。仮に渡邉がコンスタントに15~20分程度出場できるようになった場合、ここまでの7試合で課題となっているリバウンドの強化や、ややファウルプローン気味になっているアシュリーの負荷軽減に大きく貢献するにちがいない。また、ディフェンダーとして3Pエリアからペイントまで広い範囲をカバーできる「長さ」は非常に有効な武器だ。ボールを持っていない時間の方が、ボールを持ってプレーする時間よりも一般的に多くなるバスケットボールで、渡邉に備わっているこれらの資質がフルに発揮されるとき、アルティーリ千葉は次の段階に進んでいるだろう。


宮本の鋭いドライブに対抗する渡邉(写真/©B.LEAGUE)

ツーメンプレーでハンドラーになって、ドライブからガツンとポスターダンク——インタビューの中で話題にしたこういう場面はまだ見られていない。しかし、そんな機会も時間の問題で巡ってくるように感じられる。現在のペースで出場機会を得られるとすれば、ツーメンプレーでハンドラーの機会は増えていくし、そこから自分でフィニッシュに行ける、行かなければならない、決めてこなければならない場面も出てくるだろう。「ステートメントゲーム」もそう遠くはないのではないだろうか。

レマニスHCは、「できれば若手に助走期間のようなものを用意したいですが、いずれにしてもこのチームがなりうる最高の状態にしていくことが最優先です」と話しており、序盤戦で渡邉にやたらな出場機会を用意する考えではない。「レオンは序盤戦で自ら道を切り開いていかなければいけません。そして機会を得たらしっかり生かしてほしい。それをやっていければ、シーズンが進むとともに成長していけるでしょう」とも話していたが、その考えの中で実際にコートに送り出し、チームとしてもここまでまずまずのスタートを切っていることを思えば、渡邉への信頼と期待が膨らんでいることは間違いなさそうだ。

富山戦ゲーム2で前日のリベンジを果たした後の会見で、渡邉はローテーションの一角に定着することについての意欲を以下のように話してくれた。

「自分もいち早くチームのローテーションに絡んでいきたいです。そういう気持ちをずっと持っています。ただ、特にアルティーリ千葉は何年間もみんなで同じスタイルを高度に洗練させてきているので、怜緒さんにも、『1年目は苦労するところがあるかもしれないよ』という話をもらっています。自分の実力の部分と別に、入ってまだ何か月目という身でどうプレーするべきかと考えることもあります」


先輩たちからの助言も受けながら、渡邊は着々と全身を見せている(写真/©B.LEAGUE)

「でも逆に、少し新しい風を自分の形で吹かせることができるのかなとも思っています。もちろん(チームとしての)型の中でのプレーではありますけど、このサイズでウイングをやらせてもらっているので、自分にしかできないプレーが絶対あると思うんです。そこをもっともっと重宝されるように、練習でも試合なんだという気持ちで取り組んでいますので、簡単なことではないですけれど、本当にすぐにでもローテーションに絡めるように、また明日からもやっていきたいなという意欲があります」

渡邊の「新しい風」は少しずつ勢力を強め、現在注意報発令中といった状況か。ファンの皆さんはステートメントゲームが飛び出す前に心の準備を。しっかり身構えて渡邉の飛躍に注目しよう。