Bリーグのレフェリー最前線を走り切った平出剛の思い(後編)「良い審判がいれば数年でBリーグの舞台に立てる環境づくりができたら」

『Bリーグファイナル2025-26』を最後の舞台として現役を退いたレフェリーの平出剛。Bリーグ開幕から10年間にわたってトップレフェリーとして活躍し、それ以前はBリーグが設立される前に存在したプロバスケットボールリーグ『bjリーグ』でレフェリング技術を磨いた。当時の主流は2人制レフェリーだったが、bjリーグでは3人制の早期導入など多くの経験が後のレフェリングに生きていたと語った彼に、レフェリーをする上で大切にしてきたこと、これからも発展を続けるBリーグで必要不可欠となる後進を輩出するために思い描く方法について語ってもらった。
「リプレー映像は、お客さん目線として楽しめる部分」
──コーチや選手とのコミュニケーションについて重要視している部分はありますか?
昔は自分の判定に自信を持っていたので「ファウルじゃないでしょ?」と言われたら「いや、ファウルでした」と押し返していることもありました。ここ数年は私も変わりましたし、コーチの方々もコミュニケーションを大事にしてくれているので「見えませんでした」「わかりません」という言葉のキャッチボールができない答えだけは絶対に持って行かないように変化していきました。
──他のレフェリーが吹いた笛に関してコーチや選手から質問されることもあると思います。別の場所を見ていて当該プレーを把握できていないということもあるかと思いますが、そういう時はどのように伝えるのでしょうか?
ファウルを吹いた審判は、審判の動きを定めるFIBAのマニュアル上、ベンチ(テーブルオフィシャル側)とは反対側に移動しなくてはいけません。そうするとコーチからそういった質問を別の審判が受けることがありますね。そういったときに私は「コーチのほうからはファウルではないと見えたかもしれないですが、コールした審判の角度からはファウルとして見えたので判断しました」ということを伝えたり、ハーフタイムの前であれば、「ハーフタイムにクルーに共有して、必要であれば後ほどお伝えします」といったコミュニケーションをとることもありました。吹いた審判も説明から逃れているわけではなくて説明したい気持ちも山々なのですが、今のマニュアル上難しいんですよね。喋りたい気持ちは私たち審判員もあるので逃げているわけではありません(笑)。
若手には、「どうしても説明が必要な場合は、リスタートするタイミングで自分がボールを持っていれば、選手に渡さない限り試合は再開しないので、そのタイミングで伝えに行きなさい」と話しています。外国籍コーチの場合は通訳の方を呼んでしっかりと伝えなければいけないと。私がボールを持っていたら「平出さん、待ってください」と言ってくれれば協力します。しっかりと伝えることが大事で、「OK」「NEXT」というような、求めている回答とは違う発言はコミュニケーションを生まないということを強調していましたね。
──選手やコーチたちとコミュニケーションをとる上で、その他工夫していたことがあったら教えて下さい。
コートインスペクション(コートの状態やゴールの高さの確認作業)後に審判とヘッドコーチ、マネージャーの方が集まり、ロスター、先発のチェックをするために顔合わせをする「ゲームディレクターミーティング」があります。リーグのルールとして、その場では判定については話さないことになっていますが、コート上であいさつをする時に個別に話すことはありますね。「昨日のあのジャッジは?」と聞かれることもあるので、その判定が間違っていたら素直に間違っていたと伝えるようにして、お互いが良い関係性を保てるように心がけていました。
──ジャッジに対してビジョンでリプレー映像が流れることもありますが、あの時のお客さんの反応はどのように感じていますか?
例えば、ボールを叩いていたけどファウルを吹いてしまった場合に映像が流れることがありますよね。お客さんの反応を見て『やっぱりボールだったんだな』『やっぱりファウルだったか』などと私たちも思っています。直せれば良いですが、1回吹いたジャッジは直せないことが多いので、こういった経験をして成長に繋げていくことが重要だと思っています。私たちも間違えたくて間違えているわけではなく、目線を様々な場所に動かしながら判定しているので難しいシチュエーションもあります。ただ、リプレー映像が流れることは、お客さん目線として楽しめる部分でもあるのであっても良いんじゃないかなと私は思っています。

思い描くこれからのレフェリー育成
──審判は選手だけでなくコーチやファンからジャッジに対する発言を受けることがあります。そのようなことから発生するストレスとはどのように向き合っていましたか?
チームのリアクションやコートサイドのお客さんの声というのはやはり耳に入ってきます。私はSNSをやっていないのですが、それでもいろいろな人からジャッジについて聞くこともありました。若い頃はとても苦しかったですが、ベテランになってからは「高いお金を払ってコートサイドに座っているんだから文句も言いたくもなるだろう」と思えるようになりました。ジャッジに関しても、以前は相手の意見を突っぱねていた自分がいたのですが、それを変えるようにしてから気持ちが楽になるようになりましたね。引退のラストシーズンは皆さんも優しく接してくれていたので、3年前くらいから引退が近いということを言っておけばもっと優しく接してくれる晩年を過ごせたかもしれないですね(笑)。
──リフレッシュはどのようにしていましたか?
私はライブに行くことが多かったですね。MISIAさんや布袋寅泰さんのライブに行ったりして息抜きをしていました。バスケットから離れるようにして、家庭に気持ちを引きずって持ち込まないようにしていました。
──レフェリーの1週間のスケジュールについて教えてください。
1カ月前に割り当てをいただけるので、それに沿って自分たちで移動の計画を立てます。基本は前日入りして、ナイトゲームの場合は後泊することが多いですね。金曜日に移動して、土日に試合を担当、日曜日の夜に帰ってきて、月曜日に休んでまた火曜日に移動、水曜日に試合を担当して、木曜日に帰ってくるというスケジュールが基本になると思います。レフェリー以外に本業がある方は月曜日に仕事に出たり、火曜日や金曜日は仕事の後に移動、木曜日も水曜ゲームがあった週であれば午前中に移動した後に仕事をすることもあるそうです。
──平出さんは会社にお勤めだったのでしょうか?
私は自営業だったので、少しでもチャンスがあれば割り当て表にマルを付けて提出していました。割り当ては経験など関係なく平等に扱われていました。家族とのルールで、クルーチーフを任されるポジションになってもB1だけでなくB2、B3を含むすべてのカテゴリーの試合を担当するというスタンスでやっていました。試合を選び始めたら審判を始めたきっかけとズレてしまいますしね。でも割り当て担当の方が気を遣ってB1を中心に割り当てを入れてくれていたと思います(笑)。
──家族とのルールというお話もありましたが、ご家族のサポートは重要でしたか?
とても大きいと思います。「頑張ってきてね」と心よく送り出してくれて応援してくれる人の存在は大きいですね。ほとんど留守にしているのでオフシーズンに入ったら家族サービスをするようにしていました。
──Bリーグが始まって10年が経ちました。バスケットボール界も急速に発展をしてきましたが、今後この世界で期待したいことはありますか?
今の審判員は選手やコーチが求めていることの変化に敏感に反応してアジャストするようにしているので、ファンのみなさんには彼らを信頼してゲームを見ていただきたいです。ただ、現実問題として『審判をやりたい』という人をどんどん増やしていかなくてはいけないと思っています。かと言ってやりたい人だけが集まれば良いというわけではなく、技術面のレベルアップも必要です。現状として「選手のレベルに審判がついてきていない」というニュースや話を聞くこともあり、残念な気持ちになる一方で、それも事実の一つとして受け止める必要があると考えています。これから私がどのように審判に携わるかは決まっていませんが、中から変えてほしいという声もいただいているので、お手伝いしていきたいですね。
──平出さんが思い描く育成システムはありますか?
まずはバスケットで審判をすることが好きじゃないと、長く続けられないということが大前提としてあります。審判はいろいろな方から様々なことを言われることが多いですし、そういった経験をして『やっぱり審判はもうやりたくない』となってしまう若い人たちも多いと聞くので、審判は試合に必要不可欠な存在で、なおかつ楽しめるものだということを広めていく必要があると思っています。日本サッカー協会は審判マネージャーやインストラクターの方が各地域に赴いて若手を発掘し、育てるシステムを実施しています。JBA(日本バスケットボール協会)も同じように発掘プログラムを行って、トップリーグを吹くために必ず長い道を辿らなくてはいけないのではなく、良い審判がいれば数年でBリーグの舞台に立てる環境づくりができたら良いなと個人的には考えています。
──最後にバスケットボールファンのみなさんにメッセージをお願いします。
長きにわたってお世話になり、本当にありがとうございました。おかげさまで無事、最後まで審判を担当することができました。今シーズンに限ったことではありませんが、各会場で声をかけていただいたり、引退ということを知ってもらっていてポップを作って掲げていただいたのはうれしかったです。なかなか直接ごあいさつすることはできなかったのですが、掲げてもらったポップは見えていましたし声も届いていて、とても励みになりました。個人としては横浜アリーナで審判生活を終えることができて良い形で終えることができました。今後は現役の審判が引き続き一生懸命トレーニングをして、良い試合を作れるように努力していきますので引き続き審判への応援をお願いします。本当にありがとうございました。