チケット購入
2017.05.10

攻撃力が武器の川崎と3Pシュートが鍵のSR渋谷 アナリスト視点でB.LEAGUEを見よう(3)

  • COLUMN

編集◎スポーツナビ(元記事)

B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-17(CS)の対戦カードが決定したことで、Bリーグもいよいよクライマックスを迎えた。スポーツナビではBリーグ初代王者が決まる5月13日からのCSに向けて、大会ナビゲーターに就任したバスケットボール解説者・NBAアナリストの佐々木クリス氏協力のもと、プレーデータを活用したCSの楽しみ方を連載形式でご紹介する。今回は、準々決勝で相まみえる川崎ブレイブサンダースと、サンロッカーズ渋谷のシーズンデータから、チームの特徴を解説してもらう。

本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。

文◎佐々木クリス

■ リーグ得点王を軸に生まれる川崎の好循環

初めて行われたBリーグのシーズンにあって、リーグで最も早くCS出場を決めた川崎。その強味はなんといってもリーグNO.1の攻撃力=得点効率の高さだろう。ことネット揺らすことにおいて、彼らを止めるのは至難の業だ。

リズムを狂わせようとゾーンディフェンスを試みたチームもその効率の良さに気持ちを折られたことがしばしばあっただろう。

得点効率が良い理由はいくつか挙げられる。リーグ得点王で1試合あたり27.1点を記録するニック・ファジーカスの存在は試合のどんな場面でもアドバンテージを生み出す。まさに攻撃の起点であり、大きなレバレッジとなっている。また、ファジーカスがチームに加わり5年目のシーズンとなり、篠山竜青、辻直人といったバックコートの主軸と一緒に積み重ねてきた歳月は簡単に揺らぐことはないケミストリーを構築している。さらに「臨機応変」を座右の銘とし、選手達に「自ら考え成功体験を重ねてもらう」スタイルの北卓也ヘッドコーチは、選手やスタッフにも委譲しながらトップレベルでも成功を収めてきている。

このスタイルを示すデータとして注目すべきは、チーム内でのボールの回り具合を表すアシスト(AST)%の高さと、チームの安定性を表す指標である1試合に記録するアシスト数とターンオーバー(TO)数の比率=AST/TOだ。リーグNO.1の累計1064本のアシストは成功した全FG(フィールドゴール)の実に56.29%と18クラブの平均よりも9%も高い。シュート決定力が高いだけにアシストが伸びるのは当然と言えば当然。しかし、絶対的なファジーカスの存在感とは裏腹に、アイソレーションと呼ばれる1対1の状況からのシュート数は全シュートの2.5%でリーグ最小であるとデータは示す。ならばリーグNO.1のeFG%(※1)はボールが回るからこそさらに高まると言う好循環が見て取れる。

■ アシスト%が高いことも好材料

もうひとつの好循環を示すのはAST/TOだ。世界レベルでこの数字は2回のアシストに対して1回のミスをする2.0が優秀なポイントガードの指標だ。リーグ平均が1.166と伸び悩んでいる中ではあるが、川崎は1.54で栃木ブレックスに次ぐ2位、実に所属選手4人が1.5以上を記録。チームの堅実さを物語っている。

その内訳を見ていくと100回の攻撃で14.2回TOを犯す頻度は平均より少し良いだけで、川崎もミスをしないわけではない。しかし先ほども挙げたAST%が優秀なだけにリーグでもTOPクラスのAST/TOとなっている。

試合を観戦した方ならお分かりだと思うが、川崎の選手達には十分な決定力があるばかりでなく、ボールをつないで、相手ディフェンスの講じる策をかい潜って、打つべき選手にボールが供給できているのだ。それがデータにも表れている。

最後に特徴をひとつ付け加えるならば、川崎はバスケットボールにおいては誰しもが効率よく点に結びつけられるトランジション、すなわち速攻の頻度はリーグ9位に過ぎない。当然少ない機会も高確率で決めるため危険なことに変わりはないが、この速攻の少なさからは、ハーフコートオフェンスがいかに高い完成度かがうかがい知ることができる。

ファジーカスは、リーグ4位のポストアップ数(308回)、さらに300回以上ポストアップをする選手中2番目に高い得点期待値をポストプレーにおいて有する。この脅威を最大限に活かしながら、ボールを持たずにリングに飛び込むカットプレーと、3pラインにそろったシューター陣でディフェンスを粉砕する。ファジーカスを守るのか、そこからの展開を守るのか、対戦チームは苦しい決断を迫られる。

NeTレーティングのコラム(※2)でもご紹介した通り、川崎の守備力はリーグ平均以下となっている。川崎相手に構えてはいけない。彼らが時折みせるフルコートプレスはリーグの中でも効果が高く、CSでは脅威になり得る。しかも、対戦相手に与えるトランジション機会は平均的であり、一度走られると新潟アルビレックスBBに次ぐリーグ2番目に高い確率で決められてしまう。それ以外に、ポストディフェンス、オフェンスリバウンドの直後に押し込まれるもろさもある。毒をもって毒を制す、攻撃的なメンタリティーで守備側の労力を使わせることでかき乱す必要がありそうだ。

■ 守備のSR渋谷が攻撃力も発揮するには

SR渋谷が60試合の長いシーズンを経て、CS出場枠をつかんだ大きな要因はリーグ6位の守備力だろう。相手に与えるFG成功率はリーグで6番目に高い44%でありながら、相手の攻撃100回につき16.2回のターンオーバーを誘発する数字は特筆に値する。「スティール王」広瀬健太を筆頭にベンドラメ礼生、アイラ・ブラウンもスティール総数でトップ10入りしている。

ただ自ら犯すターンオーバーも決して少なくない。その数はCS進出チーム中、琉球ゴールデンキングスに次いで2番目に多い。スティール数からも分かるように運動能力が高い選手がいるので、速攻時の相手の決定力は7番目に低く抑えられている。それだけに、自らのターンオーバーを減らすことができれば、もっと優位性を打ち出せる武器になる。

攻撃面を分析すると残念ながらCS進出チーム中2番目に低く振るわない。ひとつ大きな問題点として、シーズン全体で放った3P数は1440本とリーグで3番目に多いものの、決定力は32.9%でリーグ13位に甘んじていること。

なぜ決定力が伸びないのか。味方にチャンスを作り出してもらうタイプのキャッチ&シュート(以下C&S)と呼ばれるパスを受けてそのまま放つシュートの、ノーマーク率が低い。良い攻撃の目安である50%以上ノーマークが理想だが、SR渋谷はチームで46.4%と完全にノーマークでシューターに必ずしもボールを渡せていないことが分かる。

通常高確率になるタイプのシュートなので、SR渋谷もノーマーク時の決定力は平均を超えている。必ずしも選手達の能力不足とは言えないだけに、1試合であと2~3本のC&Sをノーマークに変えられるだけでも攻撃力は大きく転換できるだろう。

■ グインのピック&ポップからの3Pを武器に

ここでひとつ、相手ディフェンスのズレが少なく、ノーマークが少ない理由の考察として注目すべきプレーがある。それはアールティー・グインによる3Pシュートと、それを生み出すまでの過程だ。

グインは3Pを得意とするため、ボールマンにスクリーンをかけた後の動きの大半がピック&ポップと呼ばれる外方向への動きであり、守備側が2人のディフェンダーで完結できてしまう。これが守備全体の収縮を起こさない要因。

そんなグインは今季3本以上の3Pを決めた試合が21試合、そのときのチームの勝率は16勝5敗と非常に高い。入れば非常に恐ろしい武器になる。成功率も41.8%と期待値が高いわけだから打ち続ければいいのでは?と思われるかもしれない。しかしシーズンの1/3しか起こらないことであるばかりか、勝率トップ5チーム相手には一度も成しとげていない。彼のシュート力の脅威が全体に好循環となっていないことは、グインの3Pが3本の成功に満たない試合は全体で16勝23敗からも分かる。入らない時にチームとして別のオプションを構築できるかが、SR渋谷がCSを勝ち上がる鍵だろう。

別のオプションとしては、ブラウンが最も有効な攻撃オプションであるとデータは示している。チームがペイント内で挙げる1試合平均の得点30.3点はリーグ14位タイ。そんな中でブラウンは7.6点とチーム1位のロバート・サクレの8.4点に引けをとらないばかりか、全体のFG%ではサクレの43.1%に対し51.8%の素晴らしい数字だ。シーズンを終えて1試合のFGAはサクレ13.1本に対しアイラ10.3本となっているが、本来ならブラウンがリングへと向かう状況をもっと作りたいのが本音。

相手ディフェンスにプレッシャーがかかり収縮させる効果のあるインサイドへの侵入にあらためて着目すると、SR渋谷の攻撃の大部分を占めるポストプレーに加えて、相手ディフェンスにピック&ロールからドリブラーがシュートを打つ状況での決定力は残念ながら低い。4月に入ってベンドラメを先発させるなど、テコ入れも考えたと思われるが、CSではアイラにこの部分を担ってもらい、取得するフリースローの数もリーグ14位と少ない現状を変えなければいけないであろう。

■ 川崎vsSR渋谷のデータを比較すると……

両者のペイントエリア(ペイント)内得点、フリースローによる得点の1試合平均にはそれぞれ7.9点分と3.4点分開きがある。合計するとこの2つのカテゴリーで川崎が11.3点上回っていることになる。

川崎は平均19.86本の3Pシュートを放ち、SR渋谷は24本にもかかわらず3Pによる得点の開きは1.8点分渋谷が上回るにすぎない。

多用するSR渋谷の3Pシュートは、今季川崎との直接対決では67/189、35.44%の決定力とまずまずだが勝利には結びつかなかった。直接対決にて渋谷が今季初勝利を川崎からあげた4月23日の試合をみると、ペイント内得点38-30、フリースロー得点18-10と合計でも計56-40と初めて上回ることができた。その後、最終戦(SR渋谷が勝利)でも計46−36で上回った。

この2つのカテゴリーの合計点で、今季唯一上回ることが出来たゲームでもあるのだ。両者の対戦において、ペイント内得点とフリースローによる得点は見逃せないポイントといえる。

[ペイント内得点+フリースロー得点の合計]
17年
5月6日 川崎36−SR渋谷46(76−78でSR渋谷勝利)
5月5日 川崎48−SR渋谷47(93−86で川崎勝利)
4月23日 川崎40-SR渋谷56(71−84でSR渋谷勝利)
4月22日 川崎54-SR渋谷38(87−80で川崎勝利)
1月18日 川崎45-SR渋谷32(69−66で川崎勝利)
16年
11月23日 川崎51-SR渋谷25(87−71で川崎勝利)
10月16日 川崎51-SR渋谷27(68−56で川崎勝利)
10月15日 川崎60-SR渋谷40(89−74で川崎勝利)

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)