A千葉・渡邉伶音、高校最後の冬の記憶「全員が同じ方向を向けた」SoftBank ウインターカップ2025特別企画

冬に向けてチームが結束したきっかけとは?
12月23日から「SoftBank ウインターカップ2025」が開催される。
高校バスケの集大成となるウインターカップはこれまで数々のドラマを生み、多くのスターを輩出してきた。本企画では、ウインターカップで飛躍を見せ、現在Bリーグで活躍するスター選手に直撃し、当時の思いを聞くとともに今大会に出場する選手たちにエールを送ってもらう。第4回はアルティーリ千葉の渡邉伶音選手が登場!
2m超のサイズを持ちながら、アイソレーションプレーで得点し、広いシュートレンジも兼備するという渡邉選手は、“憧れだった”という福岡大附大濠高に入学すると、3度ウインターカップを経験。1年生でベスト8、2年生で準優勝とステップアップすると、最高学年となった3年生では見事日本一に到達した。
その裏には、代表活動でチームが揃わない難しい準備期間、仲間とともに質を高めていった練習、そして「全員が同じ方向を向く」ことで辿り着いた確かな成長があった。
ウインターカップという特別な舞台で何を感じ、何を積み重ねてきたのか。
渡邉伶音が高校最後の冬を振り返り、これから聖地に立つ後輩たちへメッセージを送る。

——ウインターカップでの歓喜から1年が経ちます。優勝し、大学入学からアルティーリ千葉に入団と激動の1年だったと思いますが、あっという間という感じでしたか?
率直な感想としては、もうあっという間だったなという感覚ですね。ウインターカップが終わって、すぐにアルティーリの特別指定に入ってという流れですから、本当にいっぱい引っ越ししたなと(笑)
——(笑) 福岡大附大濠高は、元々憧れのチームだったそうですね。誰が所属していた代を見ていたのでしょうか?
初めて大濠を見たのは自分が小学生の頃で、2017年のインターハイで優勝した井上宗一郎(SR渋谷)さんの3年生の代だったと思います。そして、横地聖真(島根)さんが1年生ながら、すごい活躍をしていて、そこから大濠を見るようになりましたね。木林優(北海道)さんもそうですし、身長が高くても動ける選手が多いというイメージがあったので、自分もそういう選手になりたいなと思っていました。
——ウインターカップは3度出場。1年生ではベスト8、2年生で準優勝となっています。どんな記憶がありますか?
1年生の時は初戦が尽誠学園だったんですが、そこで捻挫をしてしまって。ほとんど自分の力を出せないまま、不甲斐ない形で終わってしまったという記憶です。2年生の時は、川島悠翔(シアトル大)さんがチームを離れて(NBAグローバルアカデミーへ加入)、「自分がやらなければいけない」という立場になりました。気持ちの面でも責任を持って取り組めていたと思いますし、「(頂点まで)行けるんじゃないか」という感覚もありましたが、最後は福岡第一に負けて、悔しい思いをしました。
——最高学年のシーズンでは地元・福岡インターハイでベスト4となり、U18日清食品トップリーグで優勝。そしてウインターカップへという流れになりますが、どんな準備期間を過ごしていたでしょうか?
インターハイが終わってからの夏は、正直に言うと、チームとして準備する時間がなかなか取れなかったんです。自分はU22日本代表でウィリアム・ジョーンズカップに行かせてもらいましたし、他の選手も代表活動があったので、全員がそろって取り組む期間が短かったんです。ただ、夏が終わってから、そこから一気にエンジンがかかった感覚はありました。大きかったのが、トップリーグの前日にチーム全員で東海大の練習を見に行かせてもらったことです。技術の高さ、特にプレー強度を間近で見たのですが、その経験をきっかけに、「先生に指摘されるのは技術面だけにしよう(=強度や姿勢などは言われないようにしよう)」とみんなで話し合い、そこから練習の質が、ぐっと良くなったと記憶しています。あの経験は、チームとして大きかったですね。
——同世代だと、瀬川琉久選手(千葉J)がいて、平良宗龍(岩手)や十返翔里(東海大)など実力ある選手が多かったです。刺激をし合う関係だったでしょうか。
そうですね。中学校の頃から、(瀬川)琉久だったり、同級生の高田(将吾/筑波大)だったり、本当に素晴らしい選手が周りにたくさんいました。正直に言うと、大濠に進学する時は、「最終学年でメンバーに入れたらいいな」くらいの気持ちだったんです。すごい選手ばかりが揃っていましたし、自分があそこまで試合に出させてもらえるとは、まったく思っていませんでした。それでも、高校3年間を通して、同世代の仲間たちからは常に刺激を受けていましたし、その環境が自分を成長させてくれたなと思っています。
——当時、片峯聡太コーチが渡邉選手について「どんどん吸収し、形にしていく」と言っていたのが印象的です。
他には聞いたことがありますが、そういう話を先生から直接聞くことはなかったんです。自分としてはそこまで実感はないというか、結構不器用だなと思っているんです。
——その考えがいい方向に向かっているのかもしれませんね。さて、優勝までの5試合で印象深い試合はありますか?
どの試合も本当に印象深いですが、一番は初戦の日本航空戦ですね。自分としても、かなり気持ちが入っていました。決勝までの流れは、1回戦から自分たちのバスケを積み上げていくことで勢いが生まれるものだと思っています。相手はすでに2試合目でしたし、こちらは経験があるとはいえ大会初戦だったので、正直、緊張感はかなりありました。
——当時の日本航空にはオルワペルミ・ジェレマイア(天理大)というエースがいました。留学生とのプレーを課題に挙げていた渡邉選手でしたが、3年生では自信もあったのではないでしょうか。
そうですね。2年生までは、留学生に点を取らせないという意識が強かったんですけど、3年生になってからは“留学生に勝つ”ことを意識するようになりました。そこが不安だと、チームの不安要素になってしまうと思っていたので、自分はそれを作りたくなかったんです。いろいろ考えながら、試しながら取り組んできて、結果的に仲間を助けられた部分もあったし、少しは良かったのかなと思います。
——先程、名前も出ましたが1学年上だった川島選手からアドバイスがあったりしたのですか?
悠翔さんがまだ大濠にいた時は、結構アドバイスをもらっていましたね。背中で示してくれるという選手だったので、海外に行かれてからも映像を見て、いろいろなプレーを参考にしてました。
ウインターカップは一番輝ける場所
——高校時代の渡邉選手にとって、ウインターカップはどんな舞台でしたか?
小学生の頃から見てきた高校バスケでしたが、ウインターカップは一番輝ける場所だと思っていました。どんなに頑張っても、3回しか経験できない大会ですしね。当時もそうでしたが、今振り返ってみると、気負わずに楽しめる場所で最高の舞台だったなと思います。
——どこに特別さを感じますか?
言葉にするのは難しいんですけど、会場に入った瞬間の空気は、今でもすごく覚えています。東京体育館だと複数のコートがあって、その一つひとつの試合から伝わってくる熱量が本当にすごいんです。あの感覚は、今でも思い出すとゾワゾワッとしますし、会場に入ると「ああ、始まるな」って自然とスイッチが入る。選手としても、それくらい特別な場所だなと感じていました。
——それだけ特別な舞台で、100%の力を出すために大切なことは何でしょうか?
やはりバスケットボールはチームスポーツです。自分たちは全員が同じ方向を向けたというのが(力を発揮するうえで)一番大きかったと思います。大濠は、先生も選手もスタッフも、全員が同じところを見られていました。そのベクトルが揃っていたことが、結果につながったのかなと感じています。
——片峯コーチとは大濠だけではなく、代表活動でも同じタイミングがあり、長い時間を過ごしていたと思います。印象的な言葉はありますか?
本当に色々とあるのですが、一番びっくりしたのは、卒部式ですね。先生が一人一人の卒業生に言葉をかけてくださるんですが、その時に先生が泣いていたんです。自分もその時、泣いてはいたんですけど驚きましたね(笑) その中で、「日本を代表する伶音、世界で戦っていける伶音を目指してほしい」と言ってもらったことは、今でもすごく心に残っています。
——素敵なエピソードありがとうございます。特別と語るウインターカップですが、今に生きていると感じる部分はありますか?
優勝した瞬間は、もちろんうれしい気持ちもありました。ただ、それ以上に、そこに至るまでの時間が一番楽しかったなと思います。みんなで同じ方向を向いて戦って練習してきた過程ですね。試合に向けた準備も含めて、そういうところは今でも大切にしています。やっぱり、高い壁を越えないと優勝には辿り着けないです。僕らの代は表には出さなくても、葛藤を抱えている選手が多くて、みんながそれぞれ何かを抱えながらやっていました。でも、そうやって悩んで悩んで、最後にそれが一つにつながった。だからこそ、あの結果につながったんだと思います。
——母校は連覇を狙ってのウインターカップになります。後輩たちにエールをお願いします。
インターハイ(ベスト8)では悔しい思いをしましたけど、日清ではしっかりやり返すことができて、すごくいい流れは来ていると思います。今年の3年生は一人一人個性が強いですし、それがチームとしてうまく噛み合えば、本当にいいチームになると思います。だからこそ、仲間を信じて“自分たちが勝つんだ”という気持ちを持って戦ってほしいですね。
後輩のみんなに期待していますが、特に挙げるなら6番の吉岡(陽)です。それと、自分が付けていた8番のサントス(・マノエル・ハジメ)ですね。彼は本当に努力しているのを知っているので、すごく期待しています。
——最後に大会に出場する全ての高校生にメッセージをお願いします。
ウインターカップは、自分が一番輝ける場所です。あまり気負わずに、その場でできるバスケットボールを純粋に楽しんでください。
——ありがとうございました。
写真/©B.LEAGUE、月刊バスケットボール(ウインターカップ写真)
