【BCL Asia 2025】総括 アジアを制したその先へ

B.LEAGUEを制してから2週間弱。激しいシーズンを勝ち抜いてきた宇都宮ブレックスにとって、バスケットボール・チャンピオンズリーグ・アジア2025(BCL Asia 2025)は決して万全の状態で臨むことができた大会ではなかった。
レギュラーシーズンとチャンピオンシップでチームを支えたグラント・ジェレットとギャビン・エドワーズはコンディション不良でチームに帯同せず、ベルテックス静岡でプレーし来季からNBL(オーストラリア)のメルボルン・ユナイテッドに所属することが決まっているフィン・ディレイニーと短期契約を結ぶという、厳しい状況だった。

そんなチーム状況の難しさは、グループフェーズの段階からも見て取れるものだった。3Pシュート成功率の低さ、ターンオーバーやパーソナルファウルなどの多さなど、普段の宇都宮のプレーと比較すると、ミスから生まれる苦しい時間帯が多く感じられた。初戦のメラルコ・ボルツ(フィリピン)相手に敗戦スタートで、2試合目のシャバブ・アル・アリ(ドバイ)も苦戦を強いられる辛勝となった。

なんとか勝ち上がった決勝トーナメント、準々決勝で対戦したのは宇都宮とは対照的にグループフェーズを無敗で勝ち抜き調子の良いタビアット・バスケットボール(イラン)だ。3Pシュートで13/45(成功率28.9%)と苦しみ、24パーソナルファウルから相手に36本ものフリースローを与えるなど、この試合も苦しい戦いとなった。しかしダブルオーバータイムの末に、エースのD.J・ニュービルによる逆転3Pシュートで勝利を決めるという劇的な展開が宇都宮を勢いに乗せた。

準決勝で対戦したブロンコス(モンゴル)相手には、チームとして3Pシュートが19/46(41.3%)と復調し、効率の良い試合運びで決勝へと駒進めた。
決勝の相手は前回覇者で、ここまで圧倒的な強さを見せてきたアル・リヤディ・ベイルート・クラブ(レバノン)。レバノンからは多くのファンが集まり、これまで数百人いれば多い方だった観客数も、決勝戦は3132人と宇都宮にとって圧倒的にアウェイの雰囲気となった。

しかし、ここまで本人基準では大人しめな数字だった比江島慎が30得点と大活躍。さらにニュービルのクラッチプレーも炸裂し、宇都宮はアジアの強敵相手に見事な勝利で初優勝を手にする形で大会は幕を閉じた。
ジェレットやエドワーズが不在となり、身長200cmのディレイニーがインサイドを務めることも多かった宇都宮だが、大会を通してしっかりとプレースタイルをアジャストしていったジーコ・コロネルHCの手腕は流石だった。
今季は平均34.08本でリーグで最も3Pシュートを試投した宇都宮だが、今大会ではサイズ不足を補うかのように、その試投数を平均42本まで増やしていた。「ディフェンスに与えられたシュートショットを選んでいる」とコロネルHCは語ったが、他チームが多くても30本しか打たない3Pシュートを大きく上回り圧倒したのは、今回の優勝に大きく貢献した要素だろう。

大会を通して印象に残ったのは、アジアバスケットボールの勢いだ。アジア各国のトップチームが集まっただけに、どの試合も強度の高い試合となった。そんな中で、特に躍進が話題となったのがモンゴルのブロンコスだ。

モンゴルは国としてFIBAランキング101位、アジア内でも22位という位置でありながらも、予選となったBCL Asia Eastを全勝で優勝し、勢いそのままに準決勝まで駒を進めた。宇都宮に敗れたものの、3位決定戦ではホームのシャバブ・アル・アリを倒して、モンゴル勢としては初となるメダルを獲得した。
ブロンコスのAriunbold ErdeneHCヘッドコーチもブロンコスの銅メダル獲得について「とても興奮しています。これはモンゴルバスケットボール界にとって大成功です」と語った。「全てのモンゴル人選手、コーチ、スタッフ、協会はこのような成功を何年も夢見てきたのです。」

レバノンのアル・リヤディもまた気になる存在だった。ブロンコスと同じく、FIBA WASL(West Asia Super League)を全勝し大会に進出したアル・リヤディは、2024年のBCL Asiaも全勝優勝するなど、アジアのクラブチームの中でも突出して国際大会に強い強豪だ。
決勝戦でも、大会途中に負傷してしまったエースのWael Arakjiを欠きながらも、外国籍選手とレバノン人選手のバランスの取れたロスターで宇都宮を苦しめた。国際情勢で苦しい状況に置かれながらも、レバノンを代表し強い気持ちで戦い続ける選手、コーチ、そして集まった多くのファンには心を打たれるものがあった。

ファンといえば、圧倒的アウェイの空気の中で、聞き馴染みのある「レッツゴー栃木!」の歓声で宇都宮を後押ししたBrex Nationにも触れるべきだろう。ドバイから最も遠い日本から、少数でありながらも会場に駆け付けたブレックスファンの存在は、チームにとっても心強いものだっただろう。優勝後にファンの前でチームが記念撮影する光景は印象に残るものだった。
B.LEAGUEは、「りそなグループ B.LEAGUE 2025-26 SEASON」からレバノン人選手がアジア特別枠に追加される。今後B.LEAGUEで活躍するアジア人選手がどんどん増えていくであろう期待感が大いに高まる大会となった。
2019年にアルバルク東京が優勝して以来の日本チームの王者となった宇都宮、これで9月中旬に開催される「FIBAインターコンチネンタルカップ」への出場権を手にした。各大陸王者が集う、より競争レベルの高い国際大会に挑むこととなる。
すでに南米からはフラメンゴ(ブラジル)、オセアニアからはイラワラ・ホークス(オーストラリア)、ヨーロッパからはウニカハ(スペイン)、アフリカからはアル・アリ・トリポリ(リビヤ)の出場が決まっている。北米からは昨年のようにGリーグ選抜チームが出場するのか、Gリーグ優勝チームであるストックトン・キングスが出場するのかはまだ発表されていない。ここに、宇都宮はアジア代表として出場する。
こういったレベルの高い国際大会を経験できることは、選手たちだけでなくチームとしても、リーグとしても大きな意味を持つ。
近年、海外からの注目度も増しているB.LEAGUEが、今後さらに国際バスケットボールシーンで存在感を高めていく足がかりとなるだろう。
