2025.05.14
22歳の新人は優勝へのXファクターとなるか──根本大が三遠ネオフェニックスにもたらす貢献
いずれのシリーズも2連勝で決着したわけだが、中でも三遠と群馬クレインサンダーズのシリーズは2戦とも白熱した。
ゲーム1は試合時間残り1分34秒で三遠が8点差を付けていたが、群馬が猛追し残り20秒で1点差。それでも、デイビッド・ダジンスキーが群馬のファウルゲームで得たフリースローをきっちり沈め、三遠がゲーム1を制した。続くゲーム2も近い展開となり、三遠が突き放せば群馬が差を詰め、最大で三遠の18点リードだったところから、3Qには5点差まで迫る場面もあった。この試合も結局9点差と力の差はなく、細かなプレーの遂行力やディテールが勝敗を分けたシリーズだった。
三遠はデイビッド・ヌワバが2戦続けてスコアリーダー(順に26得点、17得点)となってチームを引っ張り、ほかにも、ゲーム1ではヤンテ・メイテン(10得点)、佐々木隆成(16得点)、ダジンスキー(11得点)が、ゲーム2では吉井裕鷹(16得点)、大浦颯太(14得点)、佐々木(16得点)、ダジンスキー(17得点)が2桁得点と、的を絞らせない多彩なオフェンスが光った。
終わってみれば2戦とも80点オーバー(順に83得点、93得点)と、リーグ最高のオフェンス力を誇る三遠が、その力をよりディフェンシブでフィジカルになるチャンピオンシップでも遺憾なく発揮した形になった。
だが、そのトーンをセットしたディフェンス面にも言及しないわけにはいかない。特に、2戦とも先発出場を果たした柏木真介は、出場こそ6分程度にとどまったが、試合序盤で辻直人をフェイスガードして仕事をさせず。出だしで群馬を勢い付かせなかった数字以上の働きを見せた。
大野篤史HCも「今日も真介は出場は6分くらいだけど、彼のプラスマイナスはプラス3点。それがマジでデカいです。3Qのところはファウルが3回目になってしまいましたが、あそこでオフボールスクリーンから3Pを打たせなかったことを僕は評価したい」柏木のプレーがチームに大きな影響を与えたと語っている。続けて、ベテランの献身的なプレーから若手に学んでほしいとも語った。「その姿勢を若い子に見てほしいです。自分の役割が何なのか、モメンタム(勢い)を渡さないために必要なことは何なのか。時には自分がヒーローにはなれないかもしれないけれど、そういうところのパートを一つ一つ担うことによってチームの歯車はかみ合って回っていきます。真介は引退してしまいますが、そういうところは本当に良い“教材”だと思います。若い子たちにどうやってこのリーグの中でプロとして生きていくのか、彼らは(柏木とは)違ったタイプかもしれないけど、タイプの話ではなく、チーム内での役割というところを(柏木は)すごい見せてくれているから、僕は彼が1年ここに来てくれたことはこのチームにとってかなりのプラスだったなと思います」
43歳の大ベテラン、しかも全盛期には日本代表を中心選手として引っ張ってきた柏木が鬼気迫るディフェンスでチームに貢献した──まさに、柏木の存在は最高の教材である。

大野HCの言う「若い子たち」の中で、このシリーズでキーになる働きをした選手がいる。22歳のルーキー根本大だ。茨城県のつくば秀英高時代には、3年時のウインターカップで群馬の淺野ケニーや宇都宮ブレックスの小川敦也らを擁し、同大会第1シードだった洛南高と壮絶なフィジカルバトルを繰り広げた。結果的に敗れはしたものの、その試合で根本は25得点。さらに粘り強いディフェンスで洛南高のガード陣を苦しめた。ディフェンシブなスタイルは、白鷗大でも武器として磨き上げられ、昨年12月に特別指定選手として三遠に加わってからも、貴重な貢献をするための足掛かりとなった。
合流後、しばらくの間はプレータイムがなかったが、今年3月12日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦でデビューを果たすと、そこからは徐々にプレータイムを伸ばす。地区優勝を決めた4月23日の横浜ビー・コルセアーズ戦では14分以上もコートに立ち、森井健太やキング開といった相手ハンドラーにしつこくへばり付き、ディフェンスのトーンセットに一役買った。3得点、2リバウンド、1アシストは特筆すべきものではないが、チーム最多の3スティールと同4番目のプラスマイナスでプラス4を記録している点を見ても、彼のディフェンスの貢献度はうかがい知れる。
その試合の記者会見で総括を求められた大野HCは、「前半から横浜さんのやりたいことをやられてしまって苦しい展開でしたが、我慢強く40分間戦うことができて勝利できた」とまとめ、続けて根本を絶賛した。「その流れを持ってきてくれたのはルーキーの大だと思います。大がしっかりボールプレッシャーをかけて自分たちのディフェンスのモメンタムを持ってきてくれたおかげで、オフェンスにつなげることができた」
その試合を機に、根本は安定して15分前後のプレータイムを獲得するローテーションメンバーとなり、クォーターファイナルでも2戦ともにベンチからいの一番にコートに送り出された。群馬のバックコートは辻、藤井祐眞、トレイ・ジョーンズといずれもリーグ最高クラスの実力者がそろっていたが、優れたフットワークと粘り強さを武器に代わる代わる彼らをマーク。



数字を見るとゲーム1がマイナス7、ゲーム2がマイナス14と、決して良いとは言えない。だが、合流間もない根本が立派にローテーションを務め、佐々木や大浦ら主軸のハンドラーを休ませる時間を十分に作れたという点では大健闘といえるだろう。
セミファイナル進出を決めた後、佐々木に根本について尋ねると、「めちゃくちゃすごいと思いますし、今日も昨日も相手に勢いを持っていかれそうになったときに彼がリバウンド取って、自分たちのモメンタム保ってくれました。ルーズボールだったりリバウンドだったりが、なんか彼のところに落ちてきているなという感覚があって。そういったところは本当にすごいと思いますし、ルーキーだからとかじゃなくて、本当にリスペクトしています」と、その活躍に笑顔を見せた。
三遠にとってはクラブ史上初のセミファイナル進出。優勝するチームには意外性のある活躍を見せたり、ステップアップしたりする、いわゆる“Xファクター”と呼ばれる選手がいることが多い。セミファイナルの相手である琉球ゴールデンキングスには、平良彰吾というXファクター候補がいる。もし、三遠のそれが根本なのであれば、このマッチアップも見どころ満載となるだろう。

記事提供:月刊バスケットボール