2025.07.01
桜井良太GM×竹内譲次選手が語る、選手の力と社会貢献のこれから“自分たちの一歩が誰かの未来になる”[後編]
「やってみたい」を形にする勇気が、未来を変えていく
社会的責任活動に早くから関わってきたレバンガ北海道の桜井良太GMと大阪エヴェッサの竹内譲次選手。後編では、現在それぞれが取り組んでいる活動や、ファンとの心温まる交流、そして若い選手たちへのアドバイスについて語っていただきました。“何気ない行動が、誰かの人生の転機になることもある”と語る桜井GMと、「応援されることで自分が力をもらっている」と話す竹内選手。競技を超えて広がる影響力と、今後形にしていきたい思いとは――。
<前編はこちら>
――今、桜井さんはGMとして活躍中です。SDGsプロジェクトの「LEVANGA ACTION」にも強い思い入れがあると思いますが、何を大切に活動されていますか?
桜井)地域貢献をしつつ、バスケットボールをより盛んにする活動をしていきたいと考えています。小学校訪問を多く経験させてもらった中で、実感することがいくつかあります。例えば、児童の数に対してボールの数が足りない、また設備が不十分だなと感じることもありました。訪問時に校長先生とお話をすることが多いのですが、「児童数が減っている中で、学校としてどんな競技を部活動として取り入れたらよいのかを考えているけれど、バスケットボールは人気があるから取り入れています」と言ってもらえたことがありました。自分が長く携わってきた競技ですし、北海道の中でもっとバスケットボールを盛り上げたいという思いは強いです。だからこそ、ボールを寄贈したり、子どもたちと一緒に授業でバスケットボールを体験する機会を作ったりしています。何かのきっかけになればいいし、将来的に観戦に足を運んでもらえるようなことになれば、さらにうれしいですね。

ユニファイドスポーツ®バスケットボールゲーム supported by ANYTIME FITNESS を楽しむ桜井GM
――竹内選手も出身地の大阪エヴェッサ所属ということで、活動に対して特別な思いもあるのではないですか?
竹内)自分は選手なので、チームからお願いされた活動に参加するということがほとんどです。それでも自分の地元である吹田市にはなるべく行けるようにしてもらっています。地元にある大きなモールに吹田市出身と書かれた自分の等身大パネルがずっと飾られているんですよ。それは貢献活動とは違うかもしれないですけど、少しでも地元に還元できているのかなとも思います。
その地元で社会的責任活動もしてはいますが、やっているというのはおこがましいと言うのか、自分が地元で何かをやっている以上に、応援で力をもらっているなと感じるんですよ。大阪というと野次もすごそうに思うかもしれませんが、全然そんなことはなくて、すごく身近な感じで応援してもらっていて感謝しています。

ユニファイドスポーツ®バスケットボールゲーム supported by ANYTIME FITNESS を楽しむ竹内選手
――桜井さんは、活動する中でファンとのエピソードはありますか?
桜井)これまでの話の延長になりますが、何気なくやったことが、想像以上に大きな力になるんだなと感じた出来事がいくつかあります。印象的な一つに、手紙で悩みを打ち明けてくれた方とのエピソードがあります。手紙は、“毎日がしんどくて、心が折れそうです”という内容で、実際に会って話をしました。自分では特別なことを言ったつもりではなかったんですが、その方から定期的に「少しずつ外に出られるようになった」とか「バスケ部でキャプテンを務めるようになった」、「大学に進学して、今は社会人として働いている」と報告をしてくれるようになったのです。何気なくやった行動が、誰かの人生の転機になることもあるんだなと実感する体験でした。

参加者のSONアスリートやパートナー一人ひとりとハイタッチをする桜井GM

参加者のSONアスリートやパートナー一人ひとりとハイタッチをする竹内選手
こうした経験を通じて、自分の活動が誰かの背中を押すことにつながっているんだと思えるし、それは自分にとってもすごくエネルギーになることです。特に引退の際には、たくさんの方からメッセージや手紙をいただき、「桜井さんのプレーを見て頑張れました」とか、「毎日、仕事を続けられたのはその姿に励まされたからです」といった言葉をもらいました。自分としては、そこまでのことをした実感は正直あまりなかったんですが、そうやって自分の存在が誰かの支えになっていたんだと感じる瞬間が何度もありました。
竹内)本当に僕らにそんな力があるのか? ということはありますよね。活動の場で「選手が来てくれるだけで全然違うんです」と言ってもらっても、自分としては“そんなことないでしょ”と思ってしまうところが正直あって。でも、実際にそういう場面を目の当たりにすると、改めて自身の存在価値に気付かされるんです。それは自分たちのやってきたことの意味を再確認する機会でもありますね。
――お二人は若手選手に対しても影響力があると思います。活動をやりたいと思っている選手に対して、どんなアドバイスを送りますか?
竹内)今の時代、失敗が怖かったり、悪目立ちしそうとか一歩を踏み出せない若い子は多いと思います。でも、そういう空気に惑わされてほしくないんですよね。バスケットボールが好きなのに、一歩が踏み出せない。もしそうなら、好きなことなんだから失敗を恐れずにチャレンジしてほしいと思います。むしろ、失敗することも含めて楽しんでほしい。周りには、あれこれ言ってくる人がいるかもしれません。でも、そういう声に引っ張られずに、自分が好きなことに本気で打ち込んでほしい。心からそう思います。
――実際に若手から相談されることは多いですか?
竹内)ちょっと話が反れるかもしれませんが、若い選手の中には、「自分はこういうプレーをしたい」という思いがある一方で、チームからは違うプレーを求められている、というジレンマを抱えているケースが少なくないです。そうした時に大事なのは、やっぱりどうやってすり合わせていくかということ。日本の環境では、若い選手がコーチと密にコミュニケーションを取ることは、簡単ではないこともあります。だからこそ、僕が間に入って、「コーチはこう考えていると思うよ」とか、「気持ちもわかるけど、その中間地点をどう探るか」と、橋渡しのような役割を担うことがあります。選手が成長していくためにも、ただプレーを任せるだけじゃなく、そうした対話や理解の積み重ねがすごく大切なんじゃないかと思いますね。

――桜井さんは立場上、若手ともコミュニケーションを図ることは多いと思いますが、いかがでしょうか?
桜井)僕がよく言うのは、「迷ったらすぐ相談してみたほうがいいよ」ということです。僕自身、今はGMという立場になって、いろいろなことを調整したり、学んだりしながら進めていますが、やっぱり人には得意・不得意があるなと感じます。自分が2時間かかることでも、フロントの中には20分でできる人がいたりする。“餅は餅屋”ではないですが、得意な人に相談するのが一番いいんです。同じように選手が、自分の持っている知識や経験だけで社会貢献活動をしようとしても、やれることには限界があります。でも「こういうことをやってみたい」と思っているなら、クラブのスタッフに相談したほうがいい。そうしたら、自分が想像していた以上の形で実現できることがあると思うんです。何より「やりたい」という気持ちこそが大事です。それを周りにしっかり伝える。自分の影響力も生かしながら、周囲と協力して進めていくことが、結果として一番いい形につながると思います。
――最後に、今後形にしてみたい活動があったら教えてください。
竹内)自分自身の経験からも感じることですが、世の中には様々な事情でバスケットボールはもちろん、スポーツ全般に触れる機会すら持てない子どもたちが、思っている以上に多くいます。だからこそ、そういった子どもたちに何かしてあげたい、力になりたいという思いは常に持っています。そうした支援はとても複雑で繊細な問題でもあります。それでも、そうした環境にある子どもたちの力になれたらという気持ちは、これからも変わりません。今後も、できるかぎりのアプローチを続けていきたいと考えています。
桜井)自分には636試合連続出場という記録があるのですが、無理を重ねた部分もあって、足首に問題が残っているんです。そういった経験も踏まえて、今後は自分の実体験を何か社会貢献活動に生かしていけたらと考えています。具体的なことはこれからになりますが、自分だからこそ伝えられることや、できることがあると思っています。今シーズンはGM初年度で、正直余裕がまったくありませんでした。でも、これから時間を取って、しっかり考えていきたいですし、行動に移していけたらと思っています。
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取材協力:Bリーグ
記事提供:月刊バスケットボール