2026年スタートの新リーグでサラリーキャップを導入、Bリーグチェアマン島田慎二の思い(後編)「大局観を持って意思決定している」
Bリーグは10月にいよいよ10年目のシーズンを迎える。そして翌年の2026-27シーズンには『B.革新』の名のもと、新たなフォーマットでスタートを切る。前編ではBリーグチェアマンの島田慎二に、この新フォーマットの目玉となる『サラリーキャップ制度』の導入の経緯や意図について聞いたが、後編ではサラリーキャップで大きな影響を受ける選手たちとのやり取り、リーグが見つめる大局的なねらいといったファンには伝わりにくい事柄について語ってもらった。
選手会とはやり取りを繰り返している
──先ほども触れましたが、サラリーキャップは選手の収入に直結する一大事です。ですが、現状の選手会がリーグと労使交渉をできる団体ではないというところで、対応が難しい部分もあるのではないでしょうか。
おっしゃるように、今の選手会は労使交渉できる団体ではないので、「そうなりなさい」と言うつもりはないですが、なってもいいんじゃないですか、とは思いますね。
選手会が労使の交渉権を持ち、会社でいう労働組合ができるということは、理事会と実行委員会とで意思決定してきたところに、選手会との対話というワンクッションが加わるということ。正直に言うと、これまでとは異なる手続きが必要になり、手間が増える側面もありますが、選手という大事な利害関係者とコミュニケーションを取らずに物事を決めていくことに気持ち悪さも感じるので、「早く労使団体として交渉できる状況を作っていきましょう」「それができなくても選手を無視して決めていくことはありません」ということは明確にしています。
私自身も選手会と何度も話し合いをしていますし、リーグの競技運営のメンバーも、選手会の弁護士さんも含めてコミュニケーションを重ねています。特に利害に直結する議案については「リーグはこういう意図でやっています。選手の皆さんはどう思いますか?」とアンケートを取ったりもしています。選手会は労使交渉できる団体ではないからとないがしろにすることはしていません。
──リーグとしてもチェアマンとしても、選手たちとしっかりと向き合われていると。
ファンの皆さんには見えないでしょうが、コミュニケーションはしっかり取っています。ただ、選手会は現状は事務局などの組織を持っていないため、「選手の総意はこうです」というものがリーグにきちんとした形で届いていないというところはあります。また、所属する全選手に送られている「リーグとこういうミーティングをした」という議事録を、どれだけの選手がしっかりと読んでいるのか、というのは気になるところです。
サラリーキャップや、オン・ザ・コートが2から3に増えることなどを受けて、選手たちから一部否定的な意見が出ていることも理解しています。ただ、大切なのはまずは経営に資金を回すこと。これから各クラブが成長していけば、サラリーキャップの上限はおのずと上がっていくものですし、サラリーキャップの上限だけでなく下限も決めることで、リーグ全体の人件費が今より増える環境を整えています。選手たちには「今以上の年俸をもらえるチャンスが生まれ、拮抗した試合が増える制度です」と説明しています。
マーケット規模の差をできるだけ排除したい
──今回お話しいただいた「資金力が劣っていても勝てるチャンスを制度で生み出す」「スモールマーケットのチームに希望を与える」「地方創生を促す」といった新リーグの趣旨がファンに十分に届いていない印象を受けます。改めてこの点に関する思いをお願いします。
これからのBリーグは、「マーケットの規模の違い」といういかんともしがたい課題を、制度によってできるだけ排除した上で競争を促していきたいと考えています。力のあるクラブの勢いをできるだけ削ぐことなく、地方のクラブを活気づけたいのです。今の日本社会は、首都圏への一極集中により地方が過疎化するという大きな社会問題を抱えていますが、この課題改善をバスケットボールの中で実現したい。地方のクラブにも希望を与えられる制度にし、地方を活性化していきたいという思いが根底にあります。
地方のクラブでも優勝できる可能性がある仕組みにすることで、地元経済界に「上位に進出するのは毎年大都市のクラブかと思っていたらそうではないのか」と思っていただき、ファンの皆さんはもちろんスポンサーさんにも応援するモチベーションを高めていただく。そして自治体に「こういうクラブがあるんだったらアリーナを作ってもいいな。コンサートを開いたりすることで地域経済も良くなるんじゃないかな」と思ってもらえる動きを引き起こそうとしています。
このようにリーグは、大局観を持ってさまざまな意思決定をしています。各論では制度不良も出てきますが、一つひとつを気にしていたら何もできません。他の競技団体とは一線を画したチャレンジをしているという点をビジネス界隈の方々に評価していただくことでスポンサーさんが増加したり、クラブ経営に大企業がどんどん参入したりしていくのです。ファンの皆さんにはなかなか伝わりづらい部分はあると思います。ただ、地方創生によるリーグのさらなる発展のため、サラリーキャップを含めいろいろなことを進めていることを理解していただけるとありがたいです。