2025.11.08
飛躍のジャン・ローレンス・ハーパージュニアがサンロッカーズ渋谷にもたらすエナジー「責任感というよりもルーキーらしくフレッシュに」
11月5日、ホームのひがしんアリーナに島根スサノオマジックマジックを迎えたサンロッカーズ渋谷は、大接戦の末に77-74で勝利し、連敗を「7」でストップした。
開幕5試合を終えて4勝1敗と上々のスタートを切ったSR渋谷だったが、以降は長崎ヴェルカ、千葉ジェッツ、レバンガ北海道、仙台89ERSと負けが込んだ。その間、80得点越えは一度もなく、得点力に苦しんだ。
SR渋谷とは対照的に目下7連勝中だった島根を迎え撃つにあたって、「モチベーションを自分たちで上げていかなければいけないと話していました」とは、ジャン・ローレンス・ハーパージュニア。前半こそチームとしてシュートタッチに苦しんだが、3Qに入ると持ち前のソリッドなディフェンスからトランジションを出し、ベンドラメ礼生とドンテ・グランタムを軸に猛攻撃。同クォーターの10分間で31得点を荒稼ぎした。
4Qには岡田侑大とニック・ケイを中心とした島根の反撃に遭うも、「島根がビッグショットを決めてきましたが、それでも我々には我々のプランがあります。臆せずにそのプランを遂行しようと、チーム一丸で戦いました。島根さんもビッグショットを決めていました。オフェンスでも怖がらずに、我々のやりたいオフェンスを遂行し切った結果が今日の勝利だと思います」(カイル・ベイリーHC)と、最後まで軸がブレなかった。

「ワンプレーでいいから出してくれ」
気迫でコートに立った試合終盤
試合終了のブザーが鳴った瞬間、天を仰ぐように『やっと勝てた』といった表情と共にチームメイトと真っ先に抱き合ったのがハーパーだった。
この試合の彼は、ベンチから出場して26分10秒のフレータイムを獲得。流れをつかんだ3Qに決めた3Pを含む10得点と4つのアシスト、2つのスティールを記録した。このスタッツももちろんすばらしいが、さらに特筆すべきは彼の勝利に対する執着心だ。
コートの誰よりも運動量豊富に足を動かし、まるで獰猛な犬のように一度マークしたら離さない──そんなディフェンスを徹底し、オフェンスでも貢献。4Qにはつりかけた両足を何度もストレッチして気迫でコートに立ち続けていた。そして、残り33.9秒には半ば崩れかけた態勢から決定弾となるフローターを沈め、その直後にはコートに転げ落ちるように倒れた。
チームメイトに抱えられてベンチに戻ったハーパーの足は限界だったように思えたがしかし──彼は1分もしないうちにコートに戻ってきた。「何が何でもチームに貢献した勝ちたいと思っていたので、KB(ベイリーHC)に、『ワンプレーだけでいいから出してくれ』とお願いしました。そうしたらKBも僕を信じて出してくれたので、本当に感謝しています」。ハーパーはコートに戻るまでの舞台裏を明かした。彼の勝利への執念とベイリーHCからの信頼は、間違いなくSR渋谷が勝利する大きな要素となった。
ららアリーナ東京ベイで千葉ジェッツとのゲーム1を終えたあと、ベイリーHCはハーパーについてこう話していた。

「JJ(ハーパー)とは彼が群馬クレインサンダーズに特別指定選手で入った年から数えて、今季で4シーズン目の仲です。ディフェンスのクオリティは特にすごく良いものを持っています」と評価していた。同試合でベンドラメも「頼もしい」とハーパーを絶賛する。「ああやって気持ちを全面に出してプレーしてくれるのはチームメイトとしてすごく頼もしいし、彼がディフェンスからチームの流れを作ってくれる時間帯も必ずあります。それに、今季の彼はオフェンスもすごくアグレッシブになって、もともと下手な選手ではないので、今後も果敢に得点を狙っていってほしいです。彼のスピードにはなかなかついていけないですし、アシストも上手。すごく楽しみだし、頼もしい存在になってくれたので、僕ももちろん負けないようにやっていきたいと思います。彼がああやって何が何でも相手を倒すんだという気持ちをコートで示してくれるのは、サンロッカーズとしてとても大きいと思います」
千葉Jとの試合では、激しく体をぶつけて渡邊雄太とトラッシュトークを展開するシーンもあった。瀬川琉久をマークしたときは、自らのファウルによって転倒した瀬川に手を差し伸べることもなかった。あくまでも試合中は敵。そのマインドで戦うハーパーの競争心には舌を巻く。
ディフェンスは高水準
課題はゲームコントロール
話を島根戦に戻すと、彼は自身のチームにおける立ち位置がより重要なものになっていると理解してコートに立っている。
「昨季はPGにサップ(アンソニー・クレモンズ)がいて、自分はセカンドガードで出る形が多かったです。ただ、昨季のSR渋谷のバスケは本当にシステマチックで、僕はボールを出してコーナーで待つような感じでした。だから、役割的にもディフェンスで貢献するというよりも、そこにに全振りすることの方が多かったです。でも、今年は礼生さんと自分がツーガードで出る場面が多くて、僕が、昨季サップがやっていたようなゲームメイクをしないといけないと思っています。ディフェンスも引き続きやっていて、でも、責任感というよりもルーキーらしくフレッシュに、チームにエナジーを与えれたらなと思っています」


一方で、「自分はまだ中心選手にはなれていない」とも話した。今季の活躍を見れば彼は間違いなくSR渋谷の中心選手だが、夏には日本代表としてアジアと戦ったからこそ、ハーパーは自身に足りないものを痛感しているのだろう。
「昨季に比べれば判断が良くなっている気はするんですけど、本当にまだまだダメ。ターンオーバーが今日もありましたし、特に大事な場面でのターンオーバーは自分からしたらあり得ないこと。接戦の中でどうやってプレーメイクをして、チームの勝利に貢献するかはすごく大事なことだと思うので、これからもたくさんの経験を積んで成長できたらと思います。例えば、ピックを使った後に相手が寄ってきたら、スクリーナーの選手を探すのか、あるいはコーナーが空いているかもしれないと感じて見るのか。そういう見る力がすごく大事だと思いますし、今日の前半はそれをやろうとしてターンオーバーをしてしまった場面があって、それをちょっとずつ直さないといけないです」
こう聞くと、ハーパーにはまだまだ課題が山積みなように感じられるが、僅か10分足らずの会見時間でここまで明確に課題を言語化できる能力もまた、彼の強みであるとも感じられた。
千葉Jとの試合後、ベイリーHCは彼についてこうも話していた。
「ファイトはするけども、今季は彼の仕事として周りを落ち着かせることもどんどんやっていかなければなりません。ディフェンスだけでなく、オフェンス作る部分も求められているので、そこはまだまだ伸びしろがあると思います。彼が持っているディフェンスのクオリティの高さと組み合わせてより良くなってくれたらさらに良いなと思います」
バイウィークには日本代表活動も控えている。飽くなき向上心を秘める22歳が、今後どんな成長を見せてくれるのか楽しみだ。
記事提供:月刊バスケットボール