琉球ゴールデンキングスの大黒柱、岸本隆一の飽くなき向上心「何も満たされていないですし、満たされなくて良いと思っています」
「『守らないといけない選手』だと印象付けたい」
琉球ゴールデンキングスは三遠ネオフェニックスとのアウェーゲームを1勝1敗で終えた。ゲーム1では3ポイントシュートを高確率で沈めオフェンス爆発の92-69で快勝したが、ゲーム2は三遠の強度の高いプレーに流れを引き寄せることができず、終始追いかける展開で81-83で競り負けた。
琉球の顔である岸本隆一は、ゲーム1で11得点、ゲーム2で18得点を挙げるなど、自分の役割を果たした。ゲーム2終了後、岸本は敗因を次のように振り返った。
「いろいろな要素はありますが、その中でも相手のゾーンディフェンスに苦しんだ試合でした。途中でヴィック(・ロー)の連続得点など、良い流れを作ることもできましたが、全体としてはテンポよく点数を重ねることができなかったと思います。昨日は出だしの強度のところでうまく行ったので、今日もうまく行くという感覚で入ってしまったところが反省です」
連勝が4で止まった琉球は、現在9勝6敗。ここまで敗れた試合を見ると接戦で勝ちきれないケースが多い。この試合も結果だけならこれまでと同じように見える。だが、岸本は「よくなってきている感覚はあります」と内容の違いを語る。
「テンポはよくありませんでしたが、相手の守り方に対して1つクリアできていたところもありました。今までは試合の中で生まれた課題をクリアできずに終わったところがありましたが、今日は試合の中でしっかりとアジャストできていたので、同じ負け方とは感じていないです」
脇真大の戦線離脱、ケヴェ・アルマの退団など思わぬ出来事が続いた琉球は、まだまだ本調子ではないにせよ開幕当初に比べると確かなステップアップを見せている。
岸本個人でいえばここまで15試合のうち10試合で2桁得点を挙げ、出場時間の得失点ではチームトップの+8.6など、安定したパフォーマンスを披露している。しかし本人は「良かったり悪かったりが正直なところです」と明かし、次の部分を重要視していると話す。
「シーズン序盤から意識しているのは、いかに自分のところでアドバンテージが取れるか。シュートが入る・入らないにあまり左右されず、相手に『守らないといけない選手』とちゃんと印象付けたい。そこはイメージしたように進めている感触はありますが、(11月1日、2日の)越谷アルファーズ戦では、この点に対して前のめりになりすぎて、試合の流れをきちんと読めていなかった。今回の2試合に関しては、ゲームの流れ、空気感をしっかりと見極めることをより意識していました。この部分で試行錯誤している感じです」
「一瞬一瞬が、かけがえのないものとすごく感じています」
傍から見れば岸本はリーグ屈指のクラッチシューターで、対戦相手は常に彼の長距離砲を最優先事項の1つとして抑えにきているように感じる。しかし、岸本は「より相手が警戒する選手にならないといけない。それこそ僕がリングを見ただけで、相手が反応するくらいに持っていきたいです」と語る。
岸本はリーグ屈指の人気チームである琉球を、地元出身の生え抜き選手として10年以上にわたって支える看板選手として揺るぎない地位を確立している。そして35歳と大ベテランの域に入っているが、それでも「基本的に向上心を持ち続けているつもりです」と、成長に貪欲でいられるのには次の理由がある。
「ありがたいことにキャリアを長く重ねていくことで、気づきが増えました。そして自分が気づいていないことがたくさんあることにも気づいて、それが楽しいです。いろいろなやり方をもっと取り入れることができる。ゲームの中でおとりになったりと、もっと味方を楽にプレーさせることができるようにシーズン序盤から頑張っている。そんな意識が強いです」
そして、このメンタルの根幹にあるのは、リーグや天皇杯の制覇といったさまざまな栄冠をつかんだにもかかわらず常に持ち続けている危機感だ。
「全然、満たされていないです。ケガ明けですし、みなさんが思っている以上に『いつケガをする時期が来るかもわからない』と不安を向き合っているつもりです」
「何も満たされていないですし、満たされなくて良いと思っています。難しい表現ですけど、満たされなくて良いと思いながらプレーできることに幸せも感じています」
このように岸本は着実な成長を遂げる一方、良い意味で変わっていない部分がある。その1つが勝利のとらえ方だ。10月26日、岸本はホームの群馬クレインサンダーズ戦に勝利した後のオンコートインタビューで「勝利の喜びを噛み締めたい」と語っていた。これまで数多の勝利をつかんでいながら、レギュラーシーズンの1勝を得ることにハングリーさを持ち続けている。
「昨シーズン、ケガの影響からめちゃくちゃ出たかったチャンピオンシップに出られなかったです。それもあって試合でプレーできることは本当に幸せですし、来シーズンも100%同じメンバーで戦えることはない基本的に世界です。一瞬一瞬が、かけがえのないものとすごく感じています。だからこそ、(1つの勝利に対する気持ちは)僕は大切にしたいです」
今週の3試合を終えると、リーグは約3週間の中断期間に入る。1つの大きな区切りを前に、岸本はこう意気込みを語る。「まず、スタンダードは下げない。試合で勝ったり負けたりはありますが、最近になって安定感は上がってきたと思います。ケガ人や勝率も含め、自分たちが望んでいる状況ではない分、思い通りにいっていないのは確かです。だからこそ1つのプレーにしっかりと充実感を持ち、1つの勝利に喜びを感じ、1つの敗戦をしっかりと受け止めていきたいです」
『現状維持は後退』は、琉球の球団としての大きな指針だ。この姿勢をチームで誰よりも地位を確立している35歳の岸本が率先して示す。これこそ、彼が琉球にとって唯一無二の存在であることの一番の理由だ。

