チケット購入
2026.08.25

欧州屈指の若き知将、アドリアン・コヴァーチが千葉ジェッツの新指揮官に就任「ジェッツは非常に大きな野心を持っているクラブ」

  • バスケット・カウント

アドリアン・コヴァーチ

千葉ジェッツはBリーグ開幕からすべてのチャンピオンシップに出場し、リーグ随一の強豪であり続けている。一方で、過去3シーズン連続でファイナル進出を逃しているのは、常勝チームにとっては受け入れがたい結果だ。今シーズン、記念すべきBプレミア初年度での王座奪還に向け、チームが選んだ新たな指揮官はハンガリー出身、33歳のアドリアン・コヴァーチだ。

昨シーズン、コヴァーチはスペインのバレンシアでアシスタントコーチを務め、スペインリーグを制し、欧州最高峰のユーロリーグでファイナル4進出と欧州バスケ界を席巻したクラブの躍進に貢献した。その前にはフランスのパリス・バスケットボールのアシスタントとして、トーマス・イサロ(現グリズリーズHC)の下でも結果を残した。欧州バスケ界でも有数の『将来を約束された若手コーチ』と称される逸材は、なぜ千葉Jを新天地に選んだのか。彼の指導者になるまでの歩みや、大切にするコーチ哲学についても語ってもらった。(取材日:817日)

「ジェッツのヘッドコーチ就任は興味深くやりがいのあるチャレンジ」

──まず、千葉Jのヘッドコーチを選んだ理由を教えてください

何よりも今シーズンはアシスタントでなくヘッドコーチを務めたいという思いがありました。そして千葉ジェッツからオファーが来て話をした際、チームが目指すプレースタイルやアイデンティティが私と同じ方向性であることが早い段階で分かりました。このクラブには『JETS SPEED』、『JETS PRIDE』というスローガンがあり、これはスピード感のあるオフェンスと相手を混乱させるアグレッシブなディフェンスに基づいたモノと聞きました。最初の話し合いでこの方針にとても共感しました。また、ジェッツは非常に大きな野心を持っているクラブで、私も同様に非常に大きな野心を持っています。多くの点で考えが一致していたことが大きな理由です。

──慣れ親しんだヨーロッパを離れ、文化やバスケットのスタイルが大きく違う日本で指揮を執ることに緊張しますか。それとも楽しみなチャレンジという捉え方のみでしょうか。

挑戦こそ私の大好きなことです。そしてバスケットボールは私の情熱で、家族と過ごす時間以外で最も愛しているモノです。このスポーツと今の仕事を愛しているので、ネガティブな意味で緊張することはありません。私は15歳の時から、自分にとって居心地の良い場所を飛び出して挑戦を続けています。15歳の時はハンガリーを出て、スペインに行きました。交換留学のプログラムでスペイン語の勉強をしつつ、現地でバスケットボールをプレーしていたのです。その後ハンガリーに戻り、ドイツ、フランスを経て再びスペインに渡りました。

アジアに来るのは今回が初めてです。ただ、これも1つの挑戦であり、学びの機会です。新しい文化を学ぶことは人としての成長につながり、より豊かな経験をもたらしてくれます。私にとってジェッツのヘッドコーチ就任は人生における次のステージであり、興味深くやりがいのあるチャレンジ。とても楽しみです。

──コーチになろうと決意したのはいつでしたか。

高校の上級生になった時にはプロバスケットボール選手になる夢を追うことをやめていました。大学で経営学を学んでいる時、通訳としてハンガリーの子どもたちをスペインに連れていくバスケットボールキャンプに同行する機会がありました。この時はハンガリーのコーチ陣と現地のコーチ陣の意思疎通のサポート以外は特に何もしていませんでした。それがある日、急遽私が練習試合の指揮を執ることになりました。そこで、私はコーチという仕事に恋に落ちました。子どもたちに指示を出し、彼らを鼓舞する時間が本当に楽しかった。「プロバスケットボールのコーチになりたい」と決意した瞬間でした。

そこからスペインのトップカテゴリーでコーチをするために必要な資格を取得するべく、時間やエネルギーの全てを注ぎ込みました。資格を得て子どもたちの指導をしていた時に、ハンガリー1部のプロチームからアシスタントコーチのオファーがあり、プロバスケットボールの環境に身を置くことになりました。これが私のすべての始まりです。

アドリアン・コヴァーチ

「システムの中で選手たちの個性を生かし、意思決定できる自由を持たせる」

──イサロとペドロ・マルチネス(バレンシアヘッドコーチ)、2人の名将からは何を学びましたか。

2人とも素晴らしい指導者です。トーマス(イサロ)からは本当に多くのことを学び、自分のバスケットボールに対する哲学、アイデンティティを支える強固な土台作りを助けてもらいました。彼から最も学んだことは、バスケットボールは世の中の非常に多くの物事と結びついているということです。より良いコーチになるには新しいモノを取り入れて改善や改革を図る必要があります。一見すると常識外れに見えることでも、試すことを恐れてはいけない。自分が信じることがあるのなら、それを高いレベルで実行しないとならない。そして、世の中のあらゆることから学んでバスケットボールに応用できるということを教えられました。

ペドロからは頭脳面・身体面の両方で選手のスピードを日々向上させること。そして、仕組みの中で選手たちに自分らしさを表現させることの大切さを学びました。ここ数年で得た最大の収穫は、システムの中で選手たちの個性を生かし、選手たちに意思決定できる自由を持たせることです。

──世の中のあらゆることからバスケットボールのための学びを得られる点について、大学で経営学を学んだことは、あなたのコーチングに影響を与えていると思いますか。

どうでしょうか、自分では常にそういう思考でいるのでわからないです。ただ、間違いなくコーチングはあらゆることと結びついています。常にオープンマインドで新しいことを学ぶ意欲を持ち、好奇心旺盛でないといけないです。読書をし、ポッドキャストを聴くなど探求を怠らないことで、世の中には様々な情報があることを意識する。スポーツの世界だけで、大きな価値のある情報が得られるわけではないです。適切なアイデアを得て、それをどのようにチームに落とし込んだらいいのか、コーチ陣とともに考える準備をしていく必要があります。

こういった学びは、あらゆる面で効率化を導きます。選手、コーチ陣、クラブ全体の仕事をより効率的にこなせるための要素を見つけられたら間違いなく取り入れるべきです。さらに、私が大切にしているスピードを向上させてくれるものならどんなアイデアでも大歓迎です。

──コヴァーチコーチは優れた戦術眼の持ち主と評価されていると思います。いろいろな戦術を駆使していくタイプでしょうか。

私はそれほど戦術に固執するタイプではありません。物事は極めてシンプルに保ちたいと考えています。次の試合でどのような状況が生まれるかを想定し、相手の弱点を見つけて攻めるのが好きです。選手たちに複雑な解決策を詰め込んで混乱させたり、過度に戦術的なアプローチをとることはないです。むしろ、常にハイテンポを維持できるように、シンプルなやり方を好みます。それによって選手の思考スピードが上がり、速いペースでプレーを実行できるようになります。一方、ディフェンス面では相手を混乱させたい。私たちの視点で相手は何ができて何ができないかをコントロールし、試合を支配したいと考えています。(後編に続く)