PLAYBACK B.LEAGUE|コロナ禍での衝撃的な幕切れ…語り継がれるべき激動のシーズン【2019-20】

「りそなグループ B.LEAGUE 2025-26 シーズン」、B.LEAGUEは大きな節目となる10シーズン目を迎える。日本のバスケットボール界に新たな歴史を刻んだあの日から、早くも9つのシーズンが過ぎ去った。熱狂のチャンピオンシップ、語り継がれる名勝負、スター選手の誕生、そして地域に根差したクラブが紡いできた数々のドラマ。この連載では、10年目の未来へとつながるBリーグの軌跡を、シーズンごとに紐解いていく。今回は、世界的なパンデミックにより未曾有の困難に直面すると同時に、さまざまな取り組みにも挑戦した「B.LEAGUE 2019-20シーズン」を振り返る。
オフシーズン: 世界を意識した幕開けと、レジェンドが刻んだ新たな伝説

21年ぶりに自力出場した「FIBAバスケットボールワールドカップ2019」では世界の強豪を相手に5戦全敗という厳しい結果に終わり、世界の壁の高さを改めて痛感させられることとなった。その悔しさと経験を胸に、2019-20シーズンのBリーグは、かつてないほど「世界」を意識するシーズンとして幕を開けた。
その象徴が、アルバルク東京で連覇を経験した馬場雄大の海外挑戦だ。リーグから初めてNBAの舞台を目指し、Gリーグのテキサス・レジェンズと契約。この挑戦は後に「BREAK THE BORDER賞」として表彰され、新たな道を切り拓いたことが評価された。チームとしても、A東京が国際大会「FIBA Asia Champions Cup 2019」(現・BCL Asia)でBリーグ勢として初優勝を飾り、アジアの頂点に君臨。日本代表が痛感した壁を乗り越えようとする意志が、リーグ全体に新たな刺激を与えていた。
一方で、国内では一つの時代の節目となる大きな発表があった。日本バスケットボール界の“生ける伝説”折茂武彦が、50歳を迎えるこのシーズン限りでの引退を表明したのだ。多くのファンがレジェンドのラストシーズンを見守る中、その花道を飾るハイライトが2020年1月に訪れる。地元・北海道で開催された「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2020」でMVPに輝く圧巻のパフォーマンスを披露。この「49歳7カ月でのオールスターMVP受賞」という偉業は、後にギネス世界記録にも認定され、ファンの記憶に燦然と輝く伝説として刻まれた。
B1レギュラーシーズン: 各チームが見せた激闘と突然の終幕

世界への挑戦、そしてレジェンドの有終の美へと、多くの期待と物語を乗せて進んだシーズン。しかし、その結末は誰もが予測し得ないものだった。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、リーグは2月26日に約2週間の試合開催延期を発表。3月14日から一時は無観客で試合を再開するも、選手や審判団に発熱者が出て連日試合中止が発生する事態に。3月17日には再び試合中止が発表され、同月27日にはポストシーズンを含む残り全試合の中止が決定した。ここでは、前代未聞の形で幕を閉じたシーズンの、打ち切り時点までの各地区の上位争いを振り返る。
東地区でトップに立ったのはリーグ2連覇中の王者・A東京だった。怪我人が続出するなか田中大貴をはじめとする中軸メンバーの活躍で勝利を重ね、シーズン途中には津山尚大や小酒部泰暉を獲得することで終盤まで戦力を維持した。2位につけたのが宇都宮ブレックスで、A東京を直接対決の成績で上回っていたが、試合中止の影響で試合数が1試合分少なかったこともあり、1勝差で地区優勝を逃す結果となった。また、千葉ジェッツとサンロッカーズ渋谷も7割近くの勝率を記録し、リーグ戦打ち切り時点でワイルドカード上位と下位に位置する成績を残した。

中地区では、勝率5割以下であえぐ5チームを尻目に、川崎ブレイブサンダースが首位を独走した。篠山竜青や辻直人ら主力選手の負傷離脱が相次ぐ中、新指揮官である佐藤賢次ヘッドコーチの下で藤井祐眞や新加入選手の熊谷尚也らが活躍し、最終的に2位に13.5ゲーム差をつけて地区優勝を果たした。一方で地区2位となったのはシーホース三河。ダバンテ・ガードナーや川村卓也の獲得で向上したオフェンス力を武器に、ルーキーの前田悟が台頭した富山グラウジーズを1ゲーム差でかわした。
西地区1位に輝いたのは琉球ゴールデンキングス。オフに8選手が退団するなど大幅にロスターが入れ替わる中、11月には心身の疲労困憊を理由に佐々宜央HCも退団。それでも、岸本隆一と並里成に加え、新加入のジャック・クーリー、小野寺祥太、牧隼利らの活躍でチームは崩れず、3シーズン連続地区優勝を果たした。その琉球とわずか1ゲーム差で2位となったのが大阪エヴェッサ。bjリーグ時代に大阪を3連覇に導いた天日謙作HCを再び指揮官に迎え、序盤戦は首位を走るなど躍進のシーズンとなった。

昇降格: 年間王者は「該当なし」…昇降格決定戦も軒並み中止に

前述の通り、3月27日にポストシーズンを含む全試合の中止が決定したことで、「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2019-20」は開催されず、2019-20シーズンは年間王者「該当なし」という異例の結末を迎えた。同様に「B1 残留プレーオフ 2019-20」「B2 PLAYOFFS 2019-20」「B1・B2入替戦」「B2・B3入替戦」も中止に。特にB2プレーオフは同シーズンから出場チームが4チームから8チームに拡大し、さらなる盛り上がりが期待されただけに、多くのファンにとって無念の結果となっただろう。
各大会の中止に伴い、シーズンの成績による各カテゴリー間の降格は実施しないことが決定。一方で大河正明チェアマン(当時)は、「B1昇格を目指して、戦ったB2のクラブを全く昇格させないわけにはいきません」と話し、B1ライセンスを保有するB2勝率上位2チームがB1昇格することに決定。この結果、のちのクラブライセンス判定理事会を経て、信州ブレイブウォリアーズと広島ドラゴンフライズがB1に昇格。前シーズンにB2優勝を果たしながらもライセンスによって昇格を逃した信州にとっては、悲願達成の瞬間となった。
また、参入初年度B3優勝を果たした佐賀バルーナーズはB2に昇格することが決まった。一方、B2ライセンス不交付により東京エクセレンス(現・横浜エクセレンス)はB2からB3への降格することとなった。
個人賞: MVPは田中大貴が初受賞…StayHomeでの発信力が評価される異例の選考も

2019-20シーズンの個人賞では、レギュラーシーズンベストファイブに富樫勇樹、田中大貴、金丸晃輔といった4年連続受賞の常連が名を連ねる中、ライアン・ロシターと藤井祐眞が初選出。特に藤井はベスト6thマン、ベストディフェンダー賞も同時に受賞する八面六臂の活躍を見せた。そして、その並み居るスター選手の中からレギュラーシーズン最優秀選手(MVP)の栄誉に輝いたのは、リーグ最高勝率のA東京をけん引した田中だった。
田中は出場した39試合すべてに先発し、平均11.1得点4.8アシストを記録。大黒柱としてチームを支え続けた田中は、ファンに向けて「つねに上を向いて困難を乗り越えていきましょう」と力強いメッセージを発信した。
2019-20シーズンは「新人賞ベスト5」が新設され、高校生ながら特別指定選手として旋風を巻き起こした河村勇輝を初め、コー・フリッピン、熊谷航、シェーファーアヴィ幸樹らが同賞を受賞する中、その頂点に立つ形で富山の前田悟が最優秀新人賞に選ばれた。

さらに、コート内外での活躍が評価される「最優秀インプレッシブ選手(MIP)」には田渡凌が選出された。人気リアリティ番組への出演に加え、コロナ禍の“StayHome”期間中にSNSへ投稿した「#エアロビチャレンジ」の動画が国内外、競技の垣根を越えて大きな話題に。選手のコート外での発信力も評価対象となる、このシーズンならではの象徴的な受賞となった。
B1スタッツリーダーを見ると、得点はガードナー(23.4)、アシストは富樫(6.5)、リバウンドはジャック・クーリー(13.3)、スティールはベンドラメ礼生(1.8)、ブロックはジョーダン・ヒース(1.5)、3ポイント成功率は松井啓十郎(47.2%)、フリースロー成功率は金丸(97.4%)が受賞。ガードナーは3年連続得点王の偉業を達成し、金丸は開幕からフリースロー65本連続成功という驚異的な記録も話題になった。
文=バスケットボールキング編集部