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2026.10.20

「ちょっと短かったはず」のシュートが吸い込まれた理由…山崎稜と広島ブースターが起こした残り0.8秒の奇跡

  • バスケットボールキング

 試合残り0.8秒。スコアは74-75の1点ビハインド。ボールを託されたのは山崎稜だ。「もう打つしかない」。パスを受けた瞬間に覚悟を決めて得意の3ポイントシュートを放った。きれいな放物線を描いたボールがネットを揺らす。劇的逆転勝利を決めたブザービーターに、広島グリーンアリーナが歓喜で弾けた。

「(シュートが)入った瞬間、自分が考えるよりも歓声が聞こえてきて、みんなが駆け寄ってきました。これでノーカンだったらしらけてしまうので、まずは時間内であることだけを願っていました。その後すぐにブザービーター賞の100万円のことが頭に浮かびました(笑)」

劇的シュートを決めた山崎に駆け寄る広島の選手たち[写真]=B.LEAGUE

◆■残り9.5秒からの布石と、ラストプレーの“ハプニング”

 広島ドラゴンフライズは10月19日、B.LEAGUE PREMIER リーグで三遠ネオフェニックスをホームに迎え、77-75の劇的逆転勝利を収めて開幕8連勝を飾った。

 大逆転劇の流れは、山崎のシュートから8.7秒巻き戻して残り9.5秒から。広島は71-75の4点ビハインドという危機的状況で、ドウェイン・エバンスが3ポイントシュートを決めて1点差に詰め寄ると、アリーナの空気が変わった。

 直後にメイヨニックが佐々木隆成をファールで止めて三遠にフリースロー2本。会場中の広島ブースターが一体となって、相手に突き刺さるような大観声を浴びせる。佐々木のシュートは2本とも落ちた。残り8秒。メイヨがリバウンドを取り、エバンスが持ち上がってファールを受ける。試合は残りわずか0.8秒となった。

 勝利への望みを粘り強くつないで迎えたラストプレーで、コート上はクリストファー・スミス、エバンス、コフィ・コーバーン、メイヨ、山崎のオンフォー。左サイドからのスローインで、用意していたセットプレーのコールは出ていたが、緊迫した状況でハプニングも起きていた。

「コフィがいる場所を間違えていて、僕もクリスもニックもずっとコフィに叫んでいたけど、コフィは気づいてなくて。もうボールがドウェインの手に渡っていて、すぐに動き出さなきゃいけなかったので一応形通りには動きました。でもクリスとニックがいいおとりになってくれて、相手もそこだけは抑えようっていう気持ちだったと思うので、たまたま僕が空いた感じでした」

 山崎がフリーになった瞬間、スローワーのエバンスと目が合った。「ちょうどパスラインができて、ボールが来るかなと思ったら本当に来たので、『もう打つしかない』っていう気持ちでした」。少し高く浮いたボールを飛びながら手に収めた瞬間、残り0.8秒のカウントが始まった。

「キャッチしたらなるべく早くボールを離さないといけないっていうことしか考えていなかった」という背番号30は、「ボールを下げる間がないので、キャッチしたところからそのまま打たないといけない形でした。基本的に選手は1回自分の心地いいとこにボールを収めたり、持ち直したりするけど、それをせずに打った感じでした」と普段と違うフォームで素早くシュートを打ち切った。

 ここで2年前の山崎の言葉がよみがえる。当時は2023-24シーズンのチャンピオンシップで56パーセントという驚異の3ポイント成功率を記録しMVPの活躍でB1初優勝に貢献。その優勝から約4カ月後のインタビューで、3ポイントシュートを打ったときの感覚について聞くと、こう返ってきた。

「打った瞬間は入る入らないがもう大体わかります。もちろん入ると思ったシュートが外れることもあるし、ちょっとずれたなと思うシュートが入ったりすることもあるけど、基本的には入ったな、外れたなっていうのは感覚でわかります。最後に引っ掛ける指がちゃんと引っかかれば、もう僕の中ではほぼ100パーセント、90パーセントぐらいはシュートが入るので。そこがずれたりすると、『あ、ちょっと…』っていう感じにはなります」

[写真]=B.LEAGUE

 今回の三遠戦で果敢に打ち切った3ポイントシュートは、「入るかもなとは思ったけど、ただちょっと引っかかりが甘かった気もしたので、『ちょっと短いかな』っていうのが正直なところでした」と明かす。山崎の感覚的にシュートは「短かった」。でも、そのボールをリングへとブーストした要因が確かにあった。

「ドウェインがまずスリーを決めて、相手の佐々木選手にフリースロー2本落とさせたところで、やっぱりファンのみなさんの声援がめちゃくちゃ力になっていましたし、そういった会場が作り出した空気というか、熱量というか、そういったものがちょっと短かったはずのシュートを後押ししてくれました」

◆■“オンザコートフリー”の時代でも揺るがない、シューターの矜持

会場の熱量が劇的シュートを後押ししたと語る山崎[写真]=B.LEAGUE

 劇的逆転シュートを決めて勝利に導いた山崎は、「20年以上バスケットボールをやってきてブザービーターを決めたのは初めてなので、めちゃくちゃ興奮しました」とうれしそうに話し、ブザービーター賞の100万円の使い道については、「とりあえず11月中旬ぐらいにバイウィークがあるのでいろいろ考えます。海外に行ったりはできないですけど、そこで一旦小休止できるので何かしらいい形で使えたらなと思います」と笑顔で明かした。

 34歳の山崎は、“オンザコートフリー”の新ルールが導入された今季、強度の高いディフェンスで存在感を示している。コート上には高い攻撃力を誇る外国籍選手らがそろい、得意の3ポイントシュートを放つ機会は決して多くない。それでも、チーム日本人最年長のシューターが積み上げ続けてきた感覚は健在だ。

「あの1本を決めるために試合前も準備しているし、試合中に決める何本かのために試合前や練習の時から時間をかけてシューティングをしているので、自分としては自信を持っています。今日のようなシュートを決めると、より自分の自信にもなるので、今後もそこは変わらず続けていきたいです」

 シューターの矜持とブースターの熱量で引き寄せた劇的逆転ブザービーター。広島がホームでの激闘を制して連勝を8に積み上げた。

取材・文=湊昂大