理念を文化に変える経営参画型GMの真髄「第2回B.LEAGUEクラブ組織デザイン勉強会」

B.LEAGUEが描く「事業価値を高める」次世代のGM像
4月9日、B.LEAGUEオフィスで「第2回クラブ組織デザイン勉強会」が開催された。この勉強会は2026年から本格化する「B.革新」を前に、各クラブのGM(ゼネラルマネージャー)設置とその在り方を学ぶ場として企画されたもの。今回、テーマとなったのは、「クラブの『理念』が日々の判断や組織づくりにどう生かされているか」。オンラインでの勉強会には、B1~B3から各クラブの代表やGM、フロント陣が参加。B.LEAGUE常務理事の増田匡彦氏がモデレーターを務め、クラブ草創期から成長を遂げてきた琉球ゴールデンキングスの安永淳一GMとの対話を通して、スポーツビジネスとしての次世代GMに求められる役割と、その思想を言語化していった。
勉強会の冒頭、増田氏はりそなグループ B.LEAGUE2026-27シーズン以降ではヘッドコーチとGMの兼任を原則NGとする方針の真意を説明。「勝ち負けだけでB.LEAGUEの価値ができているわけではありません」と切り出すと、「B.LEAGUEなら勝利至上主義に偏重しすぎない、新たなスポーツの事業的価値を確立できる。勝つことのみが目的となるなら、成績不振によって社長や経営陣の交代が相次ぐ事態を招きかねない。競技の現場とクラブ事業の間に立ち、ビジネスとしてのスタンスを持つ存在こそがB.LEAGUEが求めるGM像なのである」と力を込めた。
昨年7月の第1回は、Jリーグ・ファジアーノ岡山のオーナー木村正明氏と服部健二GM(現名古屋グランパスSD)を招いて開催され、4つに分類されるGMタイプを学んだ。今回、そのタイプを改めて説明した増田理事は、単純な編成・リクルーティングに注力する“強化部長のGM”ではなく、ステークホルダー(利害関係者)と連携し地域へ価値を還元できる「バスケットボール本部長」や「経営参画型」といったマネジメント人材のGMを求めていくと強調。「B.LEAGUEは、ビジネス面での成功を積み重ねてきたからこそ、今の高い競技力があるのです」と10年間の歴史に触れると、チームの価値を社会に提供していく循環を生み出す手腕を各クラブのGMたちに強く求めた。
理念「沖縄をもっと元気に!」から始まる琉球の文化づくり

そして本題である琉球の組織作りに話題が移る。安永氏は、米インディアナ大を卒業後、1995年にNBAニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツに入社。現場の最高責任者を務めるなど、日本人フロントスタッフの草分けとして稀有な経験をした後、2007年に帰国。琉球のクラブ立ち上げから尽力してきた人物である。
今となっては、日本有数のプロスポーツクラブへと成長した琉球ではあるが、最初から順風満帆だったわけではない。立ち上げ2年目には深刻な経営危機にあったことを明かすと、その中で「沖縄をもっと元気に!」という理念を作ったと紹介。そのプロセスについて、当時は多様な地域課題に向き合う琉米交流(地元住民と米軍関係者の交流)などのテーマも模索したものの、よりシンプルで本質的な存在意義が必要だったと振り返る。
「スポーツが与えるものとは何なのか? やはり“人を元気にする”ことなんです」と語ると、当時の事業規模を顧みれば「その理念は、ちっぽけなクラブが何を勘違いしているのかと言われそうなおこがましい目標だったかもしれません」と自嘲する。それでも、クラブが生き残るかどうかの瀬戸際の中、“大それた理念”を掲げたからこそ、ブレずに走り続けることができたのだと説明。「うまくいかない時でも、理念が支えになり『もっと頑張ろう』という原動力になった」と力説した。「沖縄をもっと元気に!」という分かりやすい言葉だからこそ、結果としてあらゆる世代の県民や地元企業が共感できる強固な土壌を生み出したのだと分析している。
安永氏は理念が目指す光景を、「親子3世代で楽しめるエンターテインメントの追求」と紹介。一過性のブームで終わらせるのではなく、「おじいさんやおばあさんが孫を連れて試合に通い、数十年後には世代を超えてその思い出が受け継がれる」仕組み作り。それはNBAなどの海外スポーツが歩んできた文化的な継承につながるものであり、「アリーナへ特別な服を着て出かける」という日常の行動の変容を促すことこそが、クラブが創出すべき本物のブランドだと強調した。
価値や理念を掲げるだけでなく、それを希薄化させない戦略も重んじている。経営的に最も苦しかった時期でさえも、無料のサイン会などを乱発して選手の姿を切り売りすることはしなかった。「僕たちの価値は入場券の価値です。安易に半額で売れば、僕たちの価値も半額になってしまいます」と安永氏。選手のプロデュースにおいても、人気に依存するのではなく「コートから届きそうで届かない距離感」を経営レベルで計算し、特定の選手へ過度に頼らない持続可能なプロモーション体制を構築していると紹介した。
GMに求められるコミュニケーション力と、組織を持続させる「再現性」

編成トップとしてのマネジメント論にも多くの教訓が含まれていた。安永氏はかつて働いたNBAチームでの経験を引き合いに出し、バスケの知識のみを追求するスペシャリストよりも、ビジネスパーソンとして人と人をつなぎ、クラブの魅力を広げられる「コミュニケーター、優秀なセールスマン」こそ、GMに求められる資質だと考えていると語る。「正解なんてないです。優勝したから、正解というわけでもない」とした上で、コミュニケーションの重要性を指摘。選手とは直接的に仲良くなりすぎず、ポジティブな声かけに留意し、ネガティブな兆候があれば現場スタッフを通して意見を吸い上げるなど、“ハブ(中継役)”となるように意識しているという。
勉強会の終盤には、安永氏が危機感を抱く「組織の再現性」へと議論が及んだ。初期のクラブは強い想いが持続し、個人の尽力によって形作られるが、そこからの脱却を図らなければ未来へとつながっていかない。「自分たちの歴史を繋いでいく仕組みを作り、誰が担当しても機能するようにすることが大事だと思います」と語った安永氏。経験の浅い新入社員であっても、キングスの歴史や本質を自らの言葉で語れる。そのような、真の文化の浸透に向けて今も社内で試行錯誤を続けていると語った。
クラブが存在することで生まれる熱狂やエネルギーを、いかに地域社会の喜びや誇りに変え、その仕組みを受け継いでいくべきか。琉球ゴールデンキングスの歩みは、クラブとしてどんな時も「理念」を根底に置いて進み続けてきた足跡と言える。しかしながら、これは琉球による一例であり、安永氏の言葉どおり“GMのあり方や組織づくりに正解はない”。だからこそ、経営と現場がそれぞれのクラブに合った方向性を見出し、時間をかけてそれを実行していくことが求められる。今後もこうした学びの場を通じて、B.LEAGUE全体の発展を支える組織デザインが模索されていくことだろう。
