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コート外の自立が輝きを作る——「Why」を問い続けるアスリートのキャリア形成[B.LEAGUE選手研修レポート②]

2026.10.29

見どころ・レポート

 

プロ1年目からのマネーリテラシー

 

B.LEAGUEが実施したりそなグループ B.LEAGUE 2026-27シーズンに向けた新人選手研修。5日間の研修のうち最終日である7月28日の講義では、プロアスリートとしての“マネーリテラシー”と、引退後のセカンドライフをも見据えた“目標設定”の重要性が語られた。華やかなコートの裏側に潜むリスクから身を守る力と、稼ぐ力、そして“なぜ競技をするのか”を問い続ける意味とは何か。B.LEAGUEタイトルパートナーであるりそなグループとキャリアマネジメントプロジェクトパートナーのCPAエクセレントパートナーズの講話 、そしてルーキーたちのリアルな声を通して、自立したアスリート育成に力を入れるB.LEAGUEの取り組みに迫る。

プロアスリートは個人事業主である。コート上でファンを魅了し、華やかな光を浴びる一方で、彼らの競技生活には必ず引退という終わりが訪れる。B.LEAGUEでは、選手の競技スキル向上だけでなく、若いうちから社会との接点を持ち、人間力を高めるための教育に多大なエネルギーを注いできた。今夏の研修でフォーカスしたのが、現役時代から始まるセカンドライフへの準備。それはプロとしての自立を促す重要な機会となった。

プロ入りを果たした選手たちは、若くして同世代とは比較にならないほどの大金を手にすることがある。長年バスケに心血を注ぎ、努力を重ねてきたことへの正当な評価であり、大変喜ばしいことだ。しかし一方で、プロのキャリアは常にリスクと隣り合わせである。第1弾の記事で触れた脳振盪などのケガによって、いつ選手生命が絶たれるかは誰にも予測できず、急に収入が途絶える可能性も決してゼロではない。華やかな現役生活よりも、引退後の人生のほうがはるかに長いという現実のなかで、自らの身と未来を守るために絶対に必要になるのが“お金”なのだ。
 

研修に登壇したのは「りそなグループ」からりそなアセットマネジメント(株)未来資産形成ラボ所長の南川久氏、公認会計士・CPA会計学院講師の山本健太郎氏。講話では、プロ生活の初期、とりわけ1年目におけるマネーリテラシーの重要性が生々しく語られた。山本氏は「まだ贅沢な生活が身に付いていない1年目のうちに、貯蓄や資産運用の土台を作ることが不可欠です」と強調。万が一のケガで引退を余儀なくされた場合や、年俸が下がった際の税金負担をカバーするためにも、余裕のある段階で堅実な金銭感覚を養うことが求められる。もし浪費癖が付いてしまったならば、後に現役生活が立ち行かなくなった際、文字通り手元に何も残らないという状況に陥りかねない。

りそなアセットマネジメント(株)未来資産形成ラボ所長の南川久氏

特にアスリートが陥りがちな罠として南川氏が強調したのが、税金や資産管理をファイナンシャルプランナー(FP)などに「任せきり」にするリスクである。当然ながらFPが悪いというわけではない。さまざまなFPがいるからこそ、悪くいえば騙されたと思うようなケースも世の中にはゼロではないということだ。

南川氏は、マネーマネジメントの知識を持たないまま引退期を迎え、悪意ある人間に言われるがまま搾取されてしまうアスリートの実例を挙げて警鐘を鳴らした。

公認会計士・CPA会計学院講師の山本健太郎氏

山本氏も「お金は、体や家族の次ぐらいに大事なもの。それを全て他人に握られるのは非常に危険です。大事なのは、自らがしっかりと制度や仕組みを理解した上で専門家に任せることです。つまり、手綱を自分で握らなければならないということです。」と伝えた。また米メジャーリーグの選手たちが、若いうちからセカンドライフを見据えて当たり前のように資産運用を学んでいる事実も紹介され、自ら学び、知識で身を守る「自立」の必要性が強く説かれた。

なお、金融機関であるりそなグループが本研修をサポートする背景には、深い共鳴がある。公的資金の注入という困難を乗り越え、地域社会に寄り添いながら挑戦を続けてきたりそなグループの歩みは、国際試合の資格停止という逆境を乗り越え、B.LEAGUEの誕生、そして「B.革新」へと発展を続ける日本バスケットボール界の姿と重なる。未来を担う次世代の成長を支え、地域社会の発展に貢献したいという想いを共有するパートナーとして、りそなグループは選手たちの学びと挑戦を後押ししている。

“なぜバスケをするのか?”

 
 

続くキャリアデザインの講義では、講師のパーソルイノベーション株式会社 代表取締役社長 大浦征也氏が「なぜバスケをするのか(Why)」を言語化することの重要性を語りかけた。

アスリートは往々にして、チームや指導者から目標を与えられる環境に身を置いている。大浦氏はこれを“山登り型”と表現。“日本一になる”“オリンピックに出る”といった頂上の旗(目標)に向かって突き進む力は強いが、いざその旗を達成した瞬間や失った瞬間に「自分は何のために頑張っていたんだっけ?」と燃え尽きてしまうケースも少なくない。だからこそ、“競技力向上”という手段の先にある、人生における“本当の目的”を本質的に掘り下げる必要があるのだ。

「バスケは他競技に比べてロスターの人数が少なく、プレータイムが可視化されやすいシビアな世界です。出場機会を求めてカテゴリーを下げたり、移籍を経験したりする中で、多くの選手が挫折感を味わいます。しかし、『Why』、“何のために”が明確に言語化されていれば、目の前の環境が変わっても軸がブレにくくなります。その強いメンタリティ、レジリエンス(精神的柔軟性)が、選手生活を支えるのです」(大浦氏)。

大浦氏はまた、バスケ界以外の世界にアンテナを張ることの重要性も指摘。学生時代の友人との交流や、B.Hopeなどの社会的責任活動を通じて多様な価値観に触れ、自分の中に様々な引き出しを蓄えておくことが、結果として引退後のキャリアを豊かにする。大浦氏は加えて、得点が数多く入るバスケ特有のポジティブな性質にも言及し、「失敗を恐れず、打たなければ入らないという『加点主義』のメンタリティを人生にも活かしてほしい」と、コート外でも躍動するアスリート像への期待を込めた。

恩返しを体現する若き選手たち

 

こうした多角的な学びとなった時間を受け、ルーキーたちも確かな自覚と責任感を口にした。中学1年から名古屋ダイヤモンドドルフィンズのユースで育ち、高校1年からプロのコートも経験。ユース優先交渉を経て今季から正式デビューとなる若野瑛太は、「ただ使ってしまうのではなく、将来自分が成功するために、お金を『育てる・貯める』という意識を学ぶことができました。誰に見られても恥ずかしくない行動を心がけたいと思います」と研修を通じてお金を手にする意味を再確認したと語った。

そう語る若野の言葉には、ルーキーらしからぬプロとしての確かな矜持がにじむ。チームメイトの今村佳太からも「最終的にどこに行きたいのか、細かく目標を立てるべき」と直接アドバイスを受けたという彼にとっての“Why”は何か? それはユースチームへの恩返しと、未来の創造だ。「B.LEAGUEユース出身プロの代表として、僕が歴史を作れるような選手になりたい。後に続く子どもたちにとっての道標になることが目標です」。力強く前を向くその眼差しは、“本当の目的”を見据えつつある。

また、ドラフト5位指名を受けて秋田ノーザンハピネッツ入りした岩屋頼は、講義で行われた性格診断を通じて、自分に合った現実的な目標設定の有効性を実感したと説明。「将来の結婚や子育てを考えた時に必要なお金は想像がつきます。そのためにこれからどうしていくかを改めて考えようという契機になりました」と、堅実な金銭感覚をのぞかせた。実はお金について無知だった自覚もあり、大学時代からチームの先輩たちに積極的に助言を求めて学んでいたという下地があるのだ。
そして岩屋の“Why”、その最大の原動力もまた恩返しにある。
「僕の出身中学校は僕が入学した年から共学になったのですが、僕がその一期生として実質的なプロ第1号になりました。これまで関わってくれた全ての人への恩返しとして、B.LEAGUEという最高の舞台で活躍し続けたいです」。
彼が進学した早稲田大学は昨季、半世紀ぶりという躍進を遂げたことで大きな話題を呼んだ。岩屋は「早稲田を知ってもらうきっかけになれたのならうれしいですし、伝統ある母校のためにもプレーで恩返しをしていきたい」と語る。純粋にバスケが好きだからこそ、体が動く限りは競技を続けたいという岩屋。自らを支え、導いてくれた人々の思いを背負う覚悟がすでにあるようだ。

選手として類まれなポテンシャルと情熱を持っていたからこそ、B.LEAGUEという最高峰への道が開けたルーキーたち。しかし、バスケが「仕事」になるプロの世界においては、コート外のさまざまな現実と正しく向き合えなければ、コート上のプレーに100%集中することは到底できない。その最たる例が、今回語られた「お金」との付き合い方であり、引退後も続く人生の「目標設定」なのだ。

“競技力向上”という手段の先にある、人生における“本当の目的”を見失わずに努力を続けるためにも、若いうちから社会の仕組みを知り、賢く対処していく自立心が求められる。コート外の人間的な豊かさと心の平穏は、決してコート上でのパフォーマンスと無関係ではない。 B.LEAGUEが「2つの研修」を通じて若き才能たちに伝えたかったのは、まさにこの真理である。自ら考え行動できる「自立したアスリート」たちが織りなす新シーズンは、きっとこれまで以上に力強く、輝かしいものになるはずだ。